12 思ってた展開とちがぁう……

「皆さんの目と耳お借りします、ダンジョン配信者のベテルで~す」

「……魔法使いの、ロキです…………」

「ぷみゅ~い!」

「そして本日の企画はタイトルにもある通り! 私とロキちゃんの対決企画となっております! 魔法VS物理! より多くの討伐報酬を稼げるのはどっちなのか! はい拍手~」

「……」


《ロキちゃん無言で手ぱちぱちしててかわいい》《ついに来たか、対決企画》《ロキちゃんが勝つに5000イェン賭ける》


 ある程度コラボを重ねたおかげか、ロキちゃんもノリノリとはいかないまでもちゃんと流れを読んでくれるようになった。嬉しい変化だ。


「今回は倒した魔物の数ではなく、役所に持って行った時の討伐報酬で勝敗を決めます。最後まで見ないと勝敗が分からないため、お前らは画面の前から離れられないという寸法だ」


《自分から魂胆バラしてくるの草》《くそうまんまと術中だ》


「撮影はそれぞれが小型カメラでやります。……設定がうまくいってれば、ユアチューブの画面がに分割に表示されてると思うんですけど……」


《ほんとだ、二分割になった!》《これでどっちの活躍も追えるわけか》


「ちなみに、片方にだけカメラマンがついてると不公平なので、今回リゲルンはお留守番です」

「ぷみ⁉」

「ぷみじゃないだろ朝にも説明したじゃん……」

「ぷぅぷー!」

「討伐報酬で……おやつとか、買ってあげるから……我慢、して?」

「……み」

「お前ロキちゃんの言うことはちゃんと聞くよな」


《かわいいやり取り》《ロキちゃんとリゲルンちゃん、割と打ち解けてて笑う》《ベテル×ロキじゃなくてリゲルン×ロキってこと……?》


 リゲルンの頭からカメラを取り外し、自動追尾機能をONにする。カメラが魔動力で宙に浮き、私の目の前でホバリングした。この機能、便利だけど応用が利かないんだよな……。


「じゃあ、ダンジョンに足を踏み入れた瞬間からスタートです! お互いへの妨害はナシ、何階層まで潜ってもいいけど一時間後にはここに戻ってきてること! ルールはOK?」

「お、おーけー……です」


 ルールについては予め共有していたが、演出として改めて確認する。


「それじゃあ、3、2、1……スタート!」


―――

――


 ……そうして始まった対決企画は、早々に頓挫することになる。フェアじゃないから、と対決中はコメントを見ないようにしていたため、異変に気付くのが遅れてしまった。魔導スマホには、十五分前に届いたロキちゃんからのメッセージ。もっと早く気付いてあげるべきだった。


「ごめん緊急事態! 一旦席外すね!」


 とだけ言ってカメラとマイクを切る。一応、枠は閉じなかった。今後どうなるかは分からないけど。


 ロキちゃんのメッセージによると、彼女は今、地下27階にいるらしい。「できればなるべく下層に潜って、たくさんの魔物を魔法で一掃する絵を撮ってほしい」と頼んでいたので、それを遂行しようとしてくれたのだろう。地下へと続く階段を駆け下りる。


「……あ、ベテル、さん…………」


 ほっとしたようなロキちゃんの表情。……その横に。


「お久しぶりね、ソロユアチューバーのベテルさん?」


 見知った顔があった。


「うわ、無名ユアチューバーと組んでるって話マジだったんだ。ウケる」

「またお会いできて本当に嬉しいです、お元気にしていましたか?」


 ラム、ミカ、アルタ。私のかつての仲間たちが、ロキちゃんを取り囲むような形で立っていた。


「……どういうつもり」

「いや~、私たちはふつ~に、このダンジョンで撮影してただけだよ? そしたらこの子……今話題の魔法使い、ロキちゃんが通りかかったもんでね。爆発魔法のやり方とか教えてもらえないかな~って思って、声かけてみただけだよ」


 へらへら笑いながら、ラムはロキちゃんの肩に手を乗せる。ロキちゃんはそれを曖昧な動きで振り払おうとしていた。早めに助けてあげた方がよさそうだ。


「ごめんね、今生配信中だから」


 冷たく、短く言って、ロキちゃんの腕を引いて引き寄せた。「うわ、ごーいん」とミカが横からくすくす笑う。


「生配信、続けられるの~? その子、あんたが私たちから捨てられたって知ってたみたいだけど」

「そんな口きいていいの? 今も生配信中だけど」

「どうせマイク切ってるでしょ、あんたのことだし」


 さすが、一緒に活動した期間がそれなりに長いだけあって、楽しい配信に不要なギスギスを持ち込みたくないという私の気持ちまで把握されている。彼女たち自身は生配信でなく、のちに編集して出すための動画素材を撮影に来ているだけのようだし(グループユアチューバーの強みの一つは編集に力を入れられることだと個人的に思う)、相変わらず抜け目のない子だ。


「知ってたって、どうせラムたちが吹き込んだんでしょ。白々しい」

「違いますよ。彼女は私たちを見てすぐ、ベテルさんが前に所属していたグループだと気づいた様子でしたから」

「あ、そうなの? じゃあそれは疑ってごめん」


 アルタからの否定に、素直に謝罪する。まあ私の過去の話なんて別に隠しているものでもないし、私の名前で軽く検索をかければ簡単にたどり着ける情報ではある。……その辺はなんと言うか、有名人特有の人権の無さを感じるな。さすがに裏でスキャンダルの捏造を匂わされていたことまでは知らないだろうが。


「あの……出会ってすぐ、調べて、知っていて……。ごめんなさい、勝手に……」

「いいよいいよ。むしろもっと早く説明しておくべきだったよね。別に隠してたつもりはないんだけど」

「ロキちゃん、そいつにそんなにペコペコしていいの~? 相方のベテルちゃんに対して、言ってやりたいことがあるんだよね~?」


 ラムがニヤニヤと嫌な笑いを湛えながら会話に割り込んできた。目線だけで抗議の意を示すが、そんなことで怯む彼女ではない。


「いや~、実はさっきまで、あんたの悪口で盛り上がっててさ~。ほら、よく言うでしょ? 人は共通の話題があると仲良くなれるって。あんたのおかげで、私とロキちゃん、めちゃくちゃ仲良くなれたわ。ありがとう」


 薄笑いのままで、「ねえロキちゃん」と同意を求めるラム。ロキちゃんはそれには答えない。ふらり、と足を前に出して私から一歩分距離を取り、くるりとこちらを振り返って真っ直ぐに目を合わせてきた。


「……ベテル、さん」


 覚悟を決めたような目。何か言いづらいことを言おうとする人間に特有の形で、口元が歪んでいる。背後から、ラムが「ほら言ったれ言ったれ~」と煽っている。


「……何?」


 彼女に何を言われるのか、怯えているのだということに声の震えで気が付く。……この感じ、ラムに何か吹き込まれたのはほぼ間違いない。


「…………ですか?」

「え?」

「どうして、この人たち……ラムさん、たちを、見捨てて、しまったんですか……?」

「……え??」


 話の流れが見えず、ぽかんと口を開けてしまう。てっきり、ラムに私の悪評を吹き込まれただとかで、私との協力関係を解消するとか言い出す流れかと思ってたんだけど……いや、なにこれ。


「見捨てた、って……誰が誰を?」


 まるで話が見えない。かろうじて、ロキちゃんが何か勘違いしてるっぽいような気がするな……? くらいのことは分かった。見捨てられたのはラムたちではなく、私の方だ。……なんだ、なんでそんな勘違いに至ったんだ。ラムにそう言うよう吹き込まれたのか? 何のために?


「…………どうしよう、思ってた展開とちがぁう……」


 ……向こうからしても想定外の発言だったらしい。

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あなたはどうして配信者なの?~追放されたあまり1、饒舌ダンジョン攻略記~ 白眼野 りゅー @pato-nickname

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