4 絵面が地味すぎるかも!
「皆さんの目と耳お借りします、ダンジョン系配信者のベテルです」
「ぷみゅっ!」
リゲルンの頭に付いた小型カメラに向かい、いつもの挨拶。
《こんにちは~》《リゲルンちゃんおはよう相変わらずかわいい声だねハアハア》《午前中の配信珍しい》
「二日酔いの状態でダンジョンに潜ると、なんか夢の中にいるみたいというか、現実感がないんですよねー。あ、私の事じゃないですよ! 酒は抜けてます! たぶん、おそらく……」
《ダンジョン前でその話すんの怖》《断言してくれ頼むから》《少なくとも一回は酒入った状態でダンジョン行ったことないと出ない話題》
「あ、言うの忘れてたけど今日コラボ企画です」
《は?》《忘れんなよ頭ゴブリンか?》《無能》
本当は、「吹っ飛ばし事件の爆発魔法使い、参戦!」と大々的に事前告知したかったのだが、「ハードル、上がるのは……」と拒否されてしまった。まあいきなり登録者千倍のチャンネルに出演という時点で怖いだろうし、これはこれでサプライズっぽくなって楽しいかなと了承した。
「ということで、爆発魔法使いのロキちゃんです!」
《かわいい》《胸デカ》《待ってこの子まさか、伝説の……?》《ベテルちゃん爆破事件の犯人?》
「……」
タイミング的に、彼女から何か一言欲しいところだ。難しいことを言う必要はないが、「初めましてロキです、よろしくお願いします」と言ってくれるだけで、会話の駒が次に進むというものである。
「……以前の配信で偶然お会いした時、私が彼女の魔法に一目惚れして、今回無理を言って付いてきてもらいました!」
が、喋ってもらえないものは仕方ないので、私が紹介することにした。
《あら~^^》《爆破されて一目惚れ……?》《←ヒント:ドM》
「というわけで今回の企画は! 検証! 一人パーティーと二人パーティーで、ダンジョン最深部までの到達タイムは変わるのか!」
「ぷみゅーみゅみゅー!」
「……」
ここは一緒に盛り上げてほしい場面だが。小さな不満。ロキちゃんにはあらかじめ大まかな企画だけ伝えているが、私の配信には基本的に台本がないので、細かいところは打ち合わせしていない。だからこっちも悪いと言えば悪いのだが、曲がりなりにもユアチューバーならばそのくらいは察してほしいとも思ってしまう。
「まあ要は
《丁寧な説明助かる》《過去動画の宣伝も欠かさない》《ロキちゃんだっけ、全然喋ってないね》《ルール説明くらい分担してやればよかったのに》
何を言ったところで、始まった配信は止められないのだ。
―――
――
―
「さあやってまいりました、場所はダンジョン(びゅおおおお)、階層は地下(ぶわああああ!)……」
「フウライボウ! バジトウフウ! カゼガフケバオケヤガモウカル!」
「ロキちゃん⁉ ごめんだけど一旦魔法止めてもらえる⁉」
「みゅーみゅ!」
……恐ろしいほどの轟音で、私の言葉は掻き消された。なんか前にもあったな、こんなこと。
《草》《肝心なとこなんも聞こえん》《これは最高のコンビだあ……(皮肉)》《でもこの一瞬で風魔法三連発は相当強い》《魔法耐性あるはずのパープルスライムが紙くずみたいに吹っ飛んでったぞ》
「え……でも、タイムアタック企画って……」
「それはそう! それはそうなんだけど……!」
「ぷみゅ……」
なんと言うか、ここまでユアチューバー然としていない子だとは思わなかった。
《正論すぎてリゲルンちゃんまで「うぐ……」って言ってる》《いやピュアか》《やばいロキって子好きかも》《ゆーてベテルちゃんガチのRTA走者じゃないし、あくまで企画の口実だもんなw》
「一応その、会話とかしつついい感じに進めていけたらな……なんて」
「カゼノマタサブロウ!」
「ごめんあと絵面が地味すぎるかも! このまま魔物全部吹っ飛ばしてたら一回も戦闘しないでクリアしちゃうから! 撮れ高がなくなる!」
《本音出たな>撮れ高がなくなる》《あまりの事態に建前で取り繕うこともできなくなるの草》《実際マジでRTAしたらそこそこのタイム出そう》《←今回の企画とは別でやってみてほしい》
「……わかった、私が前出るから。元々前衛だし。ロキちゃんは後ろから援護して。……できれば、風魔法以外で」
下の階層に続く階段の前で、ちょうどいいタイミングだと私はそう持ちかける。
「風魔法以外……ですか?」
「ほら、この間の爆発魔法とか強かったし、いいんじゃないかなー、なんて……」
「爆発魔法は……巻き込みの危険が」
「だー! 巻き込まないように撃ってくれればいいから!」
もうだめだ、さっき撮れ高とかカメラの前で言っちゃったし、そっち方面でボケるしかない。私は覚悟を決めた。
「巻き込まないでよ? ぜっっったい巻き込まないでよ?」
「ぷみゅぷみゅ?」
《フリやんけ》《本当にドMに目覚めてたとは……》《ロキちゃんちょっと声小さくない?音量調整くらいしっかりしてほしい》
「ひっ、は、はい……がんばり、ます……」
「わー違う違う違う! そんなガチのヤツじゃなくて! ごめんね追い込んじゃって! そんな思いつめなくていいから!」
「みゅー!」
やりづらいなあもう!
《うまく行かな過ぎて逆に面白い》《もうコントだろこれ》《打ち合わせくらい事前にやっとけよ》
「き、気を取り直して攻略進めてこー!」
「ぷみー!」
空気を入れ換えるために少し声を張り、短剣を構え前に出る。階段は、雑魚モンスターと油断しがちなスライムに足を取られての転落事故が起こりやすい場所なので、十分注意して進んだ。リゲルンがカメラの位置を気にしてか、落ち着きなく飛び回っている。
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