1 ぶぎゃべぼ
「結局さあ、唐揚げが好きって言う奴は唐揚げの最大値と他の食べ物の平均値を比べて言ってるよな。カレーが好きって言う奴はちゃんとカレーの平均値で戦ってるからえらい」
《マジで何の話?》《ダンジョン攻略中とは思えない話題》《偏見すごいし》《うちの地域、カレーにゴブリン肉入ってたから苦手だったんよな。後にあれはカレーの最小値寄りであると知った》
「……思ったよりモンスターいませんねー」
「グギィッ!」
《片手間でレッドゴブリン刺しながら言うな》《喋るか殺戮するかどっちかにしてもろて》《ゴブリンの死体は放置ですか?》
「今回は魔物の間引きが目的なので素材は放置しまーす」
《把握》《ゴブ素材売れないしなあ……》《肉もカレーすらマズくするレベルだし》《ゴブ死体よりリゲルンちゃん映して》
「ウチ使い魔チャンネルじゃないんですけど……。まあいいや、特別な。こんな近くで見られることないぞ、ありがたく思え」
「ぷきゅみゅ⁉」
近くを飛び回っていた私の使い魔兼カメラマン、リゲルンの頭にくくりつけられたカメラを取り外し、もちっとそのクリーム色の体に押し付ける。鮮やかな緑色の葉っぱに似た一対の羽が、ぱたぱたっと抗議するようにはためいた。
《近すぎて何も見えないんですが……》《リゲルンちゃんかわいいたすかる》《←文字通りの盲目湧いてて草》《こいつちゃんと正面からリゲルンちゃん映したことなくね?》
「べ、別にリゲルンを映して自分より数字取れちゃったら悲しいからって煙に巻いてるわけじゃないんだからねっ!」
「きゅみゅーみゅぷみゅみゅっ!」
《「ないんだからねっ!」の真似しようとしてるリゲルンちゃん可愛すぎ》《リゲルンちゃんはこんなに健気なのにお前ときたら》《お前も使い魔系ユアチューバーにならないか?》
ほぼ声だけの出演にも関わらず、とんでもない人気だ。けど、動画出演の同意を取れない生物を能動的にカメラに映すのは私のポリシーに反するので、使い魔系に転向する気はさらさらない。カメラをリゲルンに返し、再び私を映してもらう。
「ならないね! 使い魔で取る人気なんてしょせんまやかし(ずどばん)、私は君たち視聴者にきちんと向き合って(どんどん)生きた数字を一つ一つ積み上げてだね(どどんぱーん!)」
《待ってそんなことより背後で鳴ってる音何?》《何かいい話してるっぽいけど何も入ってこなくて草》《誰か爆発魔法でも使ってる?》
……私の素晴らしいトークが、謎の音に邪魔されている。とんだ営業妨害である。が、まあ一般公開されてるダンジョンでは、こういう事故は付き物である。
「バスガスバクハツブスバスガイド!」
《ほんとに爆発魔法使いいて草》《俺が「お前は活舌が悪すぎるから使えない」って諦めさせられた、最高位の爆発魔法じゃん》《過疎ダンジョンにいていい人材じゃなくて草》《こんな狭いダンジョンで爆発魔法ってマナー違反じゃない?》《←通路の幅が3メートル以上あれば法的には無問題》
予想通り、少し先に一般の冒険者と思われる女の子の姿。ウルフカットの髪はさっぱりして、動きやすそうだ。私は揺れ物があった方が絵的に映えそうって理由でロングヘアーにしてるから、余計にそう思う。カメラを気にしないでいいというのは、それだけでダンジョン探索においてアドバンテージだ。
《体型で分かる、絶対可愛いだろあの子》《最近のカメラは自動モザイク機能付いてるから、こういう時安心な反面つまらんよな》
さて、こういう場面に遭遇した時、ダンジョン配信者が取るべき行動は何でしょう。答えはもちろん、早々に立ち去る、だ。
基本的に、配信者にとって一般冒険者との絡みはリスクでしかない。やれ一般人に対して態度が傲慢だ、邪魔をするな迷惑をかけるな、もちろんカメラにも映すな。対応一つ間違えれば、視聴者の共感や同情は自分たちと立場の近い一般人の方に傾く。
《ベテルじゃなくて、今の子もっと見せて》《一般の人が映りそうになると必ずカメラ逸らすの、ちゃんと配慮できてて偉いよな》《口は悪いがマナーはいい女》
……こう書くと、配信者である私は一般人ではないみたいな感じになるが、実際配信者というのは人間とは別の種族で、両者の間には埋められない壁がある。と、私は考えている。とにかく、いらぬ炎上リスクは避けるべきだ。
「せっかくなので別のところ探索してみますかねー。このまま下層に潜ってもいいですし……」
――ずどばん。
「ぶぎゃべぼ!」
《e!?》《何今の声》《マロマユオオガエルの鳴き声したぞ》《こら、女の子がそんなはしたない声出しちゃいけません!》《飛んだ……?》《wwやばwwww》《神回確定》《音すご》
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。とにかく、気付いたら私は地面に倒れ伏していて、背中にひりひりとした痛みがあって、長い髪の毛が口に入って気持ち悪かった。
「ぷきゅみゅー!」
《かわいい》《かわいいw》《吹っ飛んだご主人に慌てて近寄るの優しすぎる》
「……無事、ですか⁉」
遠くから、小さいながらもりんとよく通る声。マイクに乗りやすそうでいいなあ。
「申し訳ない、です! 生きて、ますか……⁉」
「ぷきゅぷきゅ、きゅみゅみゅ!」
ああ、そうか。私はあの子の爆発魔法に巻き込まれて……。
《放送事故すぎる笑》《切り抜き師です、アーカイブ消される前に切り抜きます》《じゃあ自分GIF画像作ります》《では俺は音madを》《拡散は任せろ》《カスのネット民が集結してる……》《祭りの予感》《記念カキコ》《伝説の始まり》
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