第23話『その熱が、過去を上書きする』※
ツカサの手がカガリの髪を梳き、耳の裏をなぞる。
唇が首筋から鎖骨、そして胸元へと降りていく。
ベッドのシーツの上。カガリは仰向けのまま、全身の感覚をツカサに預け切っていた。
どこをどう触れられるかも、次にどんな熱が降ってくるのかも、すべてツカサの“間”で支配されている。
だが、それは恐怖ではなかった。
――むしろその支配のなかで、何も隠さず「女」として呼吸する自由が与えられている。
ツカサが言った「声、我慢するな」という言葉が、カガリの意識にずっと残っている。
その一言が、今までどれだけ自分を抑えてきたか、どれだけ本音をさらすのが怖かったか、痛いほど思い知らせてくれた。
遊女として、客のための「声」を、佐藤のための「声」を演じてきた。
でも今だけは違う。
ツカサの前では、ありのままの自分、誰にも知られたことのない自分の声で喘ぎ、叫び、震えたかった。
前戯の最中、カガリは何度も声を抑えそうになった。
しかしツカサの指先や唇が「それでいい」「すべて曝け出していい」と語りかけてくるたび、
その蓋はゆるゆると外れていった。
指が胸を撫でる。
唇が乳首に触れ、ゆっくりと円を描く。
カガリの背中がシーツを滑る。
熱く、切なさと快感が入り混じった声が喉から漏れた。
「ん……あ、ツカサさん……」
ツカサは応えるように、もう一方の手で太腿の内側をそっと撫で上げる。
その指先が少しずつ慎重に、だが確実にカガリのもっとも敏感な部分に近づいてくる。
「ここ、だろ?」
囁きながら指先でカガリの“そこ”に触れる。
服の上からでも伝わる、カガリ自身の熱と潤み。
それをツカサは静かに、まるで宝物を慈しむように扱う。
唇を離さず、指先の動きを少しずつ深めていく。
「やっ……あ、ん……だめ、っ……!」
我慢できずに零れ落ちる声。
シーツを握る手に、力が入る。
ツカサの舌がカガリの首筋から肩、そして胸へと移動していく。
乳首にそっとキスを落とし、柔らかく包み込む。
同時に指先が下着の上から、いやらしいほど丁寧に蠢く。
「もっと……声、聞かせてくれ」
ツカサは唇の隙間からそう囁き、
カガリの足を優しく開かせる。
羞恥も恐怖も、今はどこか遠くの世界。
ツカサの熱と体温と重さが、すべてを溶かしていく。
下着をゆっくりと降ろされ、冷たい空気と熱い指先が交差する。
「綺麗だよ」
その声に、涙がこぼれそうになる。
こんな言葉を本気で囁かれたのは、人生で初めてかもしれない。
女として見られることはあっても、
“ひとりの人間”として、その美しさを認められることなど、なかった。
ツカサはカガリの太腿にキスを落とし、
そしてもっと奥へ――
舌先で敏感な場所をそっとなぞる。
カガリの全身が痙攣し、声が抑えきれず漏れる。
「あ、や、そんな……っ」
ツカサの大きな手が腰をしっかりと支え、
カガリは逃げることもできず、ただ快感に身を任せる。
何度も舌と指が交互に出入りし身体の奥の、普段は誰にも触れさせない部分をじっくりと開かれていく。
「俺の名前、呼んでみて」
ツカサの声が低く、命令のように響く。
カガリは震える声で応える。
「ツカサさん、……っ、ツカサ……! あっ、あああ……!」
声がどんどん高くなり、
全身が弓なりに反り返る。
感覚のすべてがツカサに集中し、
自分でも驚くほど素直に、甘えと快感と幸福を混ぜた声が、部屋に満ちていった。
「……かわいいな」
ツカサは一度、顔を上げてカガリを見下ろす。
唇の端がわずかに笑い、
それでも真剣な瞳が、ただ「自分だけ」を見ている。
「もう、いいか?」
カガリは無言で首を縦に振った。
身体はとっくに限界を超えて、
けれど、もっと深く、もっと奥まで繋がりたいと願っていた。
「怖かったら、言えよ。……本当に、全部止めるから」
ツカサの声は優しく、
だがその瞳の奥には、
誰にも見せたことのない“本能”が燃えていた。
「……大丈夫、ツカサさんなら……全部、欲しい」
その一言で、
ふたりの間にあった最後の壁が消えた。
ツカサの手が、ナイトガウンの裾をたくし上げ、
カガリの下着に指をかける。
その動作さえ、やさしい。
乱暴に剥ぎ取るでもなく、
けれど迷いなく、確実に。
カガリは両脚をすこしだけ閉じかけたが、ツカサが手を添えてやさしく広げていく。
「見られるの、……恥ずかしい、かも」
頬が熱くなる。
ツカサは微笑む。
「カガリの全部、ちゃんと見たい」
その一言で、羞恥はすべて溶かされた。
下着がするりと足元まで滑り落ち、カガリの脚、太腿、そして最も大切な場所が露わになる。
ツカサの視線が、まるで宝石でも見るかのように、じっくりとカガリの身体を受け止めている。
「……綺麗だ」
そう囁かれるたび、過去に佐藤や名もなき男たちに値踏みされ、
「商品」として見られていた自分とは、まるで別の“自分”が生まれたような錯覚に襲われる。
カガリは思わず目を閉じ、唇を震わせる。
ツカサの手がやさしく太腿の内側を撫でる。
そして、いよいよ自分の熱をカガリの奥に重ねる。
佐藤に嬲られた日々――
思い出すたび、身も心も汚された気がしていた。
粗野で、雑で、女をただの「欲望の捌け口」としか思わない、あの暴力的な感触。
抱かれるたびに、自分が自分でなくなるような絶望を覚えた。
だが――
ツカサは違った。
「……いくぞ」
その言葉と共に、彼の熱が、ゆっくりと、カガリの身体の中へと入り込んでくる。
――大きい。
過去に受け入れてきたどの男とも違う。
ツカサのそれは、想像を遥かに超えて逞しく、
ずっと太く、ずっと熱い。
最初の圧迫感に思わず息が詰まる。
胸が、頭が、酸素を欲しがるように震える。
ツカサの腕が、肩をやさしく抱く。
「痛かったら、すぐ言えよ」
その声も、触れる指も、
カガリを壊さぬように細心の注意を払っているのがわかる。
けれど、カガリはただ、受け入れたかった。
ツカサのすべてを、奥の奥まで――
自分の中に残る“佐藤”の痕跡を、全部塗り替えてほしかった。
ゆっくり、深く。
ツカサのそれがカガリの中に沈み込むたび、
「女」の部分だけでなく、心の奥にまで熱が沁みていく。
(ああ……私は、いま、“この人のもの”になっていく……)
身体が、心が、音を立てて変わっていく。
唇から漏れる声も、溶けた涙も、全部ツカサのためだけのもの。
彼の動きは繊細で、けれど次第に確信を帯びて深まっていく。
ツカサの腰がカガリの太腿の間にぴたりと収まり、
いよいよすべてがひとつになった瞬間――
カガリは、心のどこかにこびりついていた
「誰かに壊され、利用されてきた女」としての自分が、
ツカサの熱と重みですべて上書きされていくのを感じた。
佐藤に蹂躙されたときの“痛み”も、“虚しさ”も、
今はただ、ツカサの熱に、歓びと幸福に、全部塗り替えられていく。
「……ツカサさん……っ」
思わず名を呼ぶ。
ツカサが、カガリの頬にキスを落とす。
「全部、俺のものにしてやる。すぐには全部忘れられないかもしれない。――でも、もう離したくねえ」
その言葉が、胸の奥を打つ。
身体の奥が、ツカサの熱と圧迫で満たされる。
ゆっくりと抜き差しされるたび、
カガリの中の“女”が目覚め、
“愛されること”の歓びが波のように押し寄せてくる。
痛みよりも、嬉しさが勝る。
過去の傷が、快楽と幸福に上書きされていく。
快感と涙が同時にこぼれ、
「壊される」のではなく、「生まれ変わる」ような感覚。
カガリは何度もツカサの名を呼び、
腕を彼の背に絡ませる。
奥まで貫かれるたび、心のなかの哀しみも、弱さも、
すべてがツカサによって満たされていく。
「……ツカサさん、もっと、もっと……」
願いは全部、吐息に乗って伝わる。
ツカサは深く、ゆっくりと動きを強め、
カガリの奥底まで、自分の存在を刻み込んでいく。
「カガリ……お前は、俺だけのものだ」
何度も、何度も。
ふたりは互いの存在を貪るように抱きしめ合い、
夜が深くなるまで、
快楽と幸福の中で溶け合っていく。
そのたび、カガリの過去も記憶も、
すべてがツカサによって優しく、強く、塗り替えられていった。
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