第3話

「とりあえず、状況の把握をカナンにもしてもらいたい。あと、すぐに動けないのはそろそろこの近辺の警備の時間だからなんだ。その時間に君を外に出すわけにはいかないんだ」


そう言って、イッセイは家の奥へと進んでいく。


「だから、ご飯を食べながら話しをしよう。じいちゃんにも連絡して確認しなくちゃいけないことがあるしね」

「はい」







「これ、食べたことある?」

イッセイがそう言って指し示したのはお米だ。

「お米ね、食べたことある」

「そっかよかった。好きなだけこの器に入れてね」

「ありがとう」


炊飯器に似たような機械の中に入ったお米をカナンはよそう。

次はいつご飯にありつけるかはわからないけど、これから何が起こるかわからないから満腹にはしない方が良いだろう。それに人様の家だし沢山食べるわけにはいけないと思い器の半分だけお米を入れた。


「それだけでいいの?じゃあ、こっちきて食べよう。ばあちゃんの作ったご飯、口に合うかわからないけど」

「そんな・・頂けるだけでありがたいよ・・・」



「「いただきます」」



イッセイとカナンは、お米をよそった台所のような部屋から隣の部屋に移動して、椅子に腰をかけた。


「すごい、おかずいっぱいだね」

「だいたいいつもこんな感じ。ばあちゃんが作るものって、日持ちする調理法が多くてね。一品の量も多いからいつもこんな感じで沢山並んでる」

「うちのおばあちゃんちみたい。私のおばあちゃんも、煮物が多いから。大きい鍋で作るんだ。あ、これ白菜の古漬けだ」

「それ、食べたことあるの?」

「うん!おばあちゃんちでいつも食べるの!私の好物で。頂いてもいい?」

「もちろん、どうぞ」


カナンは一番最初に白菜の古漬けに手を伸ばした。ザクっと小気味良い音がした。古漬けは米の上に乗せて一緒に掬う。

カナンが渡されたカトラリーはフォークとスプーンだった。古漬けはスプーンでは取りづらいので、フォークで取り、そのままフォークで食べる。

「うん、凄くおいしい。おばあちゃんのとよく似た味だから、なんだかすごく安心する」

「・・・そっか、よかった」


そう言うなり、イッセイはかき込むようにおかずとお米を食べる。それを見たカナンは自分も早く食べた方が良いのかと思いイッセイと同じような速さで食べ始めた。


「あ、ごめん、ゆっくり食べていいから。俺先に食べ終わったら、色々説明するから。食べながら聞いてくれればいいよ」

「あ、ありがとうございます。ごめんなさい、気を遣わせちゃって」

「気にしないで、それより、普段からその喋り方?もっと砕けた感じでいいよ。年も近いだろうから」

「あ、敬語ね。分かった。ありがとう、普通に話すね」

「そうしてくれるとこっちも楽で助かる」


言ってから再び急いで食べるイッセイをカナンは見ていた。


ここまで何がなんだかわからなかったが、少し気持ちも落ち着いたのか、食べながら冷静にイッセイを観察し始めた。

まず、イッセイの背丈。今は食事の最中なので座っているが、立っている時はカナンより30センチ位高い。おそらく180センチはあるんだろうなと推測した。そして、イッセイが着ているのは制服だ。ブラウンのブレザーにグレーのスラックスだ。ブレザーの襟にはバッジが付いていた。校章かとも思ったが、バッジが3つ付いているから校章ではなさそうだ。実際に存在するようなデザインだったので、制服自体には疑問は持たなかった。疑問を持ったのは、制服姿の首にゴーグルと、手には革の手袋、それと、最初はゴーグルしか目に入らなかったが、彼のゴーグルの下にも何か付いている。隠れていてわからないが、スカーフだろうか。

言葉も通じる。多分、物の名称には違いがあるだろうけど、とりあえず言語が同じようで本当に良かったとカナンは再び白菜の古漬けをポリポリと食べた。


食べ終わったイッセイがまだ食べているカナンに向かって言った。

「さて、食べながら聞いてくれ、俺のいるこの世界の事。わからない言葉があったらその都度質問してくれても、あとでまとめて聞いてくれてもどっちでもいいよ。」

「・・・はい」


口の中にあった白菜をごくりを飲み込んで、カナンはイッセイの目を見た。





「俺はここでじいちゃんとばあちゃんと暮らしている。両親は二人とも研究者だから1ヶ月に数回しか帰ってこないんだ。で、俺のじいちゃんは発明家なんだ。俺も発明家。このバッジが発明家の証なんだ」

イッセイが指刺したのは、先ほどカナンが疑問に思った、イッセイの制服のブレザーに着いたバッジだった。日本の弁護士がつけているバッジと同じようなサイズである。


イッセイに、口の中にご飯が入っているカナンは首を縦に振り聞いているを合図をした。

「じいちゃんは、ここから離れた所で発明の工場を持っているんだ。発明家って実験まがいな事するから、こういう住宅街からは離れた所に持つように言われているんだ。工場爆発の危険もあるしね。で、ご飯食べ終わって、街の見回りの時間が過ぎたらその工場に行くからね。さっき先に家を出たばあちゃんも、そのじいちゃんの工場にご飯を届けに行ったんだ。ここ最近発明してたものが完成しそうだってずっと帰ってこないで作ってたんだ」

「発明家・・・なんかすごいね。イッセイ君はどんなもの作るの?」

「俺は・・・さっきのセキュリティ壊したりするものかな・・・」

「それっていけないことじゃないの?」

「でも、役にたっただろ?カナンにとっては」

「確かに」

「犯罪かもしれないが、人を傷つけるものじゃない。時には必要さ。人の命を機械だけに任せるわけにはいかないから」

「もしかして、おじいさんもそういったものを・・・」

「作ってる時もあるけど、大体はちゃんと世界に貢献できるものを作ってるよ。乗り物とか便利グッズとかね。このマスクもそうさ。昔はもっと性能が悪かったのをじいちゃんが改良したんだ。今、世の中はこのマスクが主流になってるんだ」


カナンが先ほどスカーフだと思っていた、イッセイの首元にあったものはマスクだった。


「へぇ。でも、マスクなんてそんな日常的につける?」

「この世界ではね。じゃぁ、ここから話を核心に近づけよう」

イッセイの雰囲気が変わり、今まではにこやかに話していたが、表情が少々硬くなった。



「まず、この世界は、カナンがいた世界とは別の世界だ」



先ほども会話の流れで言われて、聞いた時に混乱した事を言われた。

「さっき、カナンがいた場所、あそこは何の因果なのか他の世界からの人が現れることがあるらしいんだ。俺が見たのは、13年前の5歳の時に1度、自分の父親位の年齢の男性を見たんだ。あと、今回のカナンで2回目。

5歳の時、じいちゃんとあの場所を一緒に歩いていたら、男の人が突然現れたんだ。見ちゃった時はそれは驚いたよ。

でも、家に帰ってじいちゃんは昔からあの場所でこの世界じゃない人に会うことがあったって教えてもらって、なんだかわからないけどあの場所はそう言う場所なんだって思うことにした。他の世界から人が突然現れるなんて、怖くてしばらく気持ちの整理がつかなかったよ。じいちゃんが今まであった他の世界の人の話しをしてくれて、そのうち受け入れられるようになったんだけど」


「それで、この世界の人じゃない私に“よそもの”って言ったんだね」

「そう、じいちゃんに聞いてた他の世界・・・異世界ってじいちゃんは言ってたな。異世界から来た人が、“ヤマト”とか“ミヤコ”とか、カナンがいたところの“ニホン”って言ってたんだそうだ」

「私と一緒の世界から来た人がいたんだ・・・」

「それが、俺が5歳の時に見た人だったよ」

「え?今その人は?」

「・・・今は・・・」

イッセイは口をつぐんだ。そしてカナンは思い出した。先程、イッセイと会った時に言われた事を




《お前ような"よそもの"は最近は見つけ次第殺されるようになってきた。もう少ししたら見回りの時間になる。そうすれば、この国に住民登録されていないお前は直ぐに見つかって、黒いスーツ着た図体のでかい男どもが何十人も捕まえに来る》


その瞬間、ご飯を飲み込んだわけでもないのに、カナンは喉が締まり、心臓がドキンを跳ねた。そうだ、自分も同じ目に会う可能性が高いのだ。

恐怖心と焦りを感じたカナンは、自分の両の手を合わせてぎゅっと握った。その時、手首にしているミサンガが指にぶつかった。おばあちゃんが得意の手芸で作ってくれた、天然石のついたミサンガだ。カナンはミサンガの紐を指で伝って石を触る。石を触ると少し心が落ち着くんじゃないかと期待を込めて撫でた。



「・・・ごめん、話す順番間違えた。さっき言ったこと思い出したんだよな。食事中に怖がらせる話しするつもりじゃなかった」

「あ、大丈夫。イッセイ君に会えなくてあのままあそこにいて捕まるより今こうして安全な場所にいてご飯も食べさせてもらえてるし。ラッキーだね、私」

作り笑顔をしたカナンに、イッセイは今まで見たことない勢いでカナンに言う。

「絶対!!何とかするから!アテもあるんだ!だから安心してくれ・・って言っても難しいだろうけど」

「ううん、そんなことない。お願いします」



そもそも、彼の言うことが本当なのであれば、自分はあの場所で“見回り”の時間に見つかってスーツの男集団とやらに捕まっている頃だろう。それを、セキュリティーを壊してまで助けてくれた。きっと悪いようにはしないだろうと、カナンはイッセイを安心させるために再び、先程貼り付けた笑顔でご飯を食べ始めた。



「昔から頻度は少ないけど、異世界の人がこの世界に来ていたみたいなんだ。知らない間にもしかしたら何かの拍子に元いた世界に帰れた人もいたかもしれない。昔はこの世界もセキュリティーが今ほど厳重じゃなかったんだ。

それが突然今のような雁字搦めになったのは、俺が5歳の時に見た“ニホン”から来た人が関係してるんだけど、それはあとでにしよう・・・ここまで、何か疑問とか質問とかある?」


イッセイが丁寧に質問時間を設けてくれた。カナンは正直に聞く。


「あの、制服来てるから、学生なんだよね?あと、話からして年は18歳かな?」

「そう、俺は学生。18歳だから、高校5年生だよ」

「高校5年生?」

「あれ、ここまで結構話通じてたから、学年の数え方も一緒だと思ったんだけど・・・違うのかな?」

「私の世界のニホンでは、小学校が6年制、中学校が3年制、高校が3年制だよ」

「小学校が6年もあるのか・・・。こっちじゃ、小学校が4年制、中学校が3年制、高校が5年制だよ。なんか面白いね。」


なんだその分け方は、カリキュラムがとても気になる・・・と思いながらも、イッセイの話しの次も気になるカナンは別の質問をした。


「あと、服装に規則とかないのかな?ゴーグルしてたり、グローブとか、マスクしてたりとか。あと、なんでそんな日常的にマスクを常備?装着?してるの?」

「あぁ、ごめんね、大事な事だねそれ。この世界にいるとそれが当たり前になっちゃってたから」

「あと、今いるここは海辺の地下なの?なんか船のレストランにいるみたい。窓の外が海?水中にいるなんて」

言いながら、カナンは窓を見る。ここの部屋の窓は、腰から上の部分がガラスだが、そのガラスの部分の下20センチは水が見えている。チラチラとうかがえる物は魚だろうか。と思いながら再び目の前にいるイッセイを見た。



「確かにここは半分水中だけど、地下じゃないよ。



ここは元々地上だったんだ」

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