第2話




目を開けると、花南は畳でも床でもない、打ちっぱなしのコンクリートの様な所に横たわっていた。

周りは一面ガラスである。半分海に浸かっている様な、又は水族館の中にいる様だと花南は思った。自分は誰もいない建物の通路の途中にいるのだと改めて認識をする。そして、自分の手、足、制服のセーラー服を一通り見て、怪我や汚れを確認した。


自分に怪我がないと分かった花南は、辺りを見回した。建物の中であるのは確かだろうが、床以外はほとんどガラスである。しかもかなり分厚いガラスだ。そして、ガラスの外側に見えるのは自分の腰あたりの高さまで水であること。これは海水なのだろうかとガラスに近づく為に花南が歩くと人が走る音が聞こえてきた。


自分がいたのはT字路になっている近くでちょうど見えなかった方向から誰かがやってきた。


「お前・・・よそものか?」


そう言葉を口にしたのは、花南より少し年上っぽい男の子だった。ブレザータイプの制服を着ている。男子高校生だろうか。しかし、花南の知っている男子高校生と違うのは、手には革のグローブ、首にはゴーグルをつけている事だった。


「あの・・・ここ、どこですか?私、目を開けたらここに横になってて・・・」

この人が自分の味方になるか敵になるかわからないが、どっちにしろ自分でも何もわからずここにきてしまったし、先に私は何も知りませんを主張するように言っておいた方が良いだろうと花南は聞かれた質問に答えず自分の思ったことを口にした。


「よそものだな・・・あれか?ヤマトから来たのか?ミヤコからか?」

男子高校生はそのまま自分の質問した答えを花南に聞く。言葉は通じるのに話が噛み合いそうにないと花南が思った時に、聴き慣れた言葉が男子高校生から出てきた。


「テイコクか?それともニホンか?」

ニホンとは日本の事か?

「ニホン!日本からきた!きた?来たっていうか、気づいたらここにいたんだけど」

「分かった、とりあえずここは危険だから付いてこい」

「危険?」

「お前ような"よそもの"は最近は見つけ次第殺されるようになってきた。もう少ししたら見回りの時間になる。そうすれば、この国に住民登録されていないお前は直ぐに見つかって、黒いスーツ着た図体のでかい男どもが何十人も捕まえに来る」

「え?殺さ・・」

「俺はイッセイ。名前は?」

「私・・は、花南。カナンです」

「カナンな、とりあえず移動しよう」


イッセイは花南の手を掴み、直ぐに来た道を戻っていく。走りはしないが早歩きである。連れられた花南は状況が全然掴めない為、イッセイに色々聞きたいが今は自分が見つからないように匿ってもらえるのであろう場所まで行くのが優先だと黙って付いていく。しかし、不安なことには変わらず、下を俯いている。

手を引っ張っているイッセイは時折後ろを歩く花南を気にする。


「今は逃げることが一番だ。俺は君を差し出したりなんてしないさ。とりあえず、安全な場所に行こう。話はそれからだ」

「あ・・はい」



そしてイッセイに連れられて10分ほど歩いた所で建物の出口のような扉が出てきた。しかし、扉の横にはセキュリティーの機械がある。何かをしなければ出れない様だ。機械の前に立ち、レンズの様な物の前にイッセイは自分の顔を近づける。そして瞼を大きく開けた。そうすると機械から音声が聞こえた。

「認証しました」

ガチャッと扉が自動でゆっくりと開く。扉の厚さは20センチはある。そして、機械からまた音声が流れる。

「お次の方の認証を行います。画面レンズ前にお寄りになってーーーー」

アナウンスの途中にイッセイがポケットから小さな機械を取り出してスイッチを入れた。

ピーーーっと小さい高い音が機械から聞こえてきて、イッセイはその機械をセキュリティー機械に近づける。


「なに?それ」

「強力な磁場を出す装置。このセキュリティーシステムは、網膜スキャンで開くんだ。この国の者でないと扉は開かないどころかそのまま通報されて、海外からの不法侵入者なら逮捕の後、強制送還。カナンみたいに他の世界から来たものは殺処分となるんだ。だから、磁場で意図的に故障させて扉を開けるんだ。まぁ、直ぐにバレちゃうけど少しでも時間が稼げる様にね」

「え?他の世界?!」

「あぁ、混乱させてごめんね、大丈夫ちゃんと後で話すからさ」


ぴーーーーピピピピーーピピピ・・・・

ピピーっピピーっピピー


機械が奇妙な音を出している。そして最終的には画面に『Error Code2273』と表示された。そして扉は開いたまま機械のアナウンス音も止まり完全に故障させた。


「さ、急ぐよ」

イッセイはまた花南の手を掴んで今度は走り出した。






分厚い扉を通り、景色が変わるかと思いきや、代わり映えしなかった。相変わらず床と、ガラスで周りを囲まれている。心なしか、先程は自分の腰の高さだった水位が今では肩の位置まで来ていると思いながらカナンは走り続けていた。




「あの!あと!どれくらいで着きますか?!」

「ごめん、疲れてきた?あと3分位なんだけど!」

「3分だったら頑張れます、ちょうどご飯食べようとした時だったからお腹すいちゃって…それ以上だとお腹すいて走れないかもしれないです!」

「結構冷静だね、お腹空いてるとか…よそから来た人は大体驚いてるからそんな事言うのはカナンが初めてだよ」

「なんか、夢なのか現実なのかよく分からなくて。まだふわふわしてるんです」

「そっか」


そう言うと、後ろを向きながらカナンに話していたイッセイは再び前を向き走り続けた。




イッセイの言った通り、3分間程でようやく少し景色が変わった。大きな広場に出たが、作りは変わらず床とガラス一面である。ただ、広場を中心に通路がいくつも存在しており、カナンはどの通路に行くのかをイッセイに尋ねた。


「これ、同じような通路が沢山ですけど、どれを行くんですか?」


すると、イッセイはカナンの手を引っ張って一つの通路の前に来た。


「これ、各通路に番号が振られてるんだ。この通路はA08W201008。ニホンで言うなら《住所》だね。僕の家の住所だ。この先に僕の家がある、おいで。」


イッセイは説明をするとカナンの手を離して通路を進み始めた。そして、家の玄関らしい扉まで到着すると、先程の分厚い扉に設置されていたのと同じセキュリティーがあった。

イッセイは、セキュリティーシステムを少しいじると、先程とは違い網膜認証をせずに電源を切った。


「各家庭でも、防犯の一環でセキュリティーシステムを国が導入したんだ。ただ、電力は各家庭の電気を使ってるから停電するとこうやって電源切れる事があるからなんら不思議じゃないよ。すぐに特定される事は無いから大丈夫」

「そうですか…」

イマイチ現状が飲み込めていないカナンはとりあえず返事を返した。





そしてイッセイは扉を開けて靴のまま家の中に進んでいく。



「入って、俺一人じゃなくてばあちゃんもいるから安心して」

「はい、お邪魔します…」



カナンも靴のまま家に入る。すると、イッセイが大きな声を出した。




「ばあちゃん!!帰ったよ!!友だち連れてきた!!ご飯食べたいんだけど!!」

「あら、お客様かね?おやおや、セーラー服なんて懐かしいねぇ!」


身長はカナンとほとんど変わらない、優しい顔つきのおばあさんが家の奥から出てきた。


「イッセイの祖母のハナエと申します」

ここの方達は苗字がないのか、先程から下の名前しか言わないと考えていたら返答に遅れたカナンは慌てていう。

「カ、カナンです。はじめまして、急にすみませんお邪魔します…」


「ばあちゃん、なんか食べるものある?2人分」

「ちょうどおじいさんのお弁当を作ったところだからおかずいっぱいあるよ、机に並んでるからご飯を好きなだけよそって食べておくれ。ばあちゃんは、おじいさんにお弁当を届けてくるからね」

「わかった。ばあちゃんありがとう」


言いながら、お弁当箱より幾分大きい、重箱が包まれた風呂敷をおばあさんが持って玄関に向かう。イッセイも見送りで後をついて行った。

そして、おばあさんより先に行き扉を開けてあげた。内開きの扉だと、玄関扉の外にある電源の切れたセキュリティは隠す事が出来ない。先に外に出て、イッセイは自分の背中で電源の落ちているセキュリティを隠した。


「あ、そう言えばイッセイ、おじいさんが連絡欲しいと言ってたよ。なんでも完成したとかなんとか騒いでたね。後で電話してやってくれないか?ばあちゃんじゃ話がわからないからおじいさんの相手を出来ないんだ」

「完成…?」

イッセイが呟き、顔つきが変わった。とても目が輝いている。

「そっか、そっか!!わかった!!ありがとう!!ばあちゃん気を付けてな!多分俺たちも後で行くから!!」

「そうかい、待ってるよ」



おばあさんはそう言うと、しっかりとした足取りでカナン達が先ほど来た道を歩いて行った。



イッセイは玄関内側にいるカナンの方を向くと、まだ輝いている目で言った。

「ちょっと、話さなくちゃいけない事が沢山過ぎる!!とりあえずじいちゃんに電話しながらご飯食べよう!!」


「…電話しながらご飯?」

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