第19話:責任
「小娘!言う事聞かんかいっ!!」
「嫌よ!!降りないわ!!」
「・・・リリさん」
「親の元に居ろっ!!ここまでだって百歩どころか千歩も譲って同行を許しとるんじゃ!!これ以上は何かあったらワシらは責任が取れん!!」
「リリ、車に乗りなさい」
12歳の少女がこの緊急事態に駄々を捏ねている様子を、少々苛ついた表情で神風が見ていた。
「ここまで来たからよ!!見届けるわ!!」
「それは車からもできるだろう?」
「どうして私を除け者にするのっ?!」
デカブツが再起動した以上、リリを近づけるのは危険だとイッセイとおじいちゃんが最上の車に乗るようにと提案した。しかし彼女は頑なに言うことを聞かないのである。
「娘の魔法がどんくらい保つかわからんのっ!!一刻を争うんじゃ!めっちゃ危険!!車の方が安全だろぃ?!」
「だけどっ!!」
「でももだってもないんじゃ!!」
「”だけど”って言ったの!!」
「ぺぇぇえええええっっ!!!」
結局彼女は以前の世界でもこの世界の両親にも甘やかされて育っている。自分が一般的視点ではこの状況で役に立つどころか足手纏いになることも理解はしているが、だからと言って撤退する理由にはならないのである。
「わかりました」
イッセイが静かに返事をした。その言葉に対して、リリは『イッセイが責任を持って連れて行ってくれる』といつものように言ってくれると嬉しくなった。しかし聞こえた言葉は違った。
「リリさん、ここからは”自己責任です”」
「えっ?」
「最上さんも、それで良いですか?それがダメなら力ずくでバイクから降ろしてください」
残酷な言葉に聞こえた。否、12歳の少女には残酷だろう。
「イッセイ!いつもなら・・・!」
「いつもと危険度が違います。余裕がないから咄嗟の時に助けたり手を差し伸べることが出来ないかもしれない。俺たちは責任が取れないと言ったんです。あと、親御さんである最上さんの言葉も聞かない。それでも付いてくるというのならそれはもう『自己責任』です。俺たちと一緒に来て、リリさんにだけ何かあって、リリさんだけが怪我をしても、俺たちも、最上さんたちも、誰も悪くもなければ責任も取りません。それでも良ければバイクに乗ったままで居てください」
突き放しだ。いつもの飄々としているイッセイではない。まるで、自分の父や神風の様に大人の顔をしている。しかし、それは本当に何かあった際にはイッセイやおじいちゃんでは責任が取れないからこその言葉である。保護者の言うことも聞かないのであれば、それはもう自己責任だ。誰も自分を守りも庇いもしてくれない。自分の身は自分で守れということ。そして、自分で自分を守れなかった時、それは、自分以外の誰のせいでもないんだと。
リリは思う。どうして私以外の人たちは、仕事だろうが使命だろうがなんだろうが、自分の思った通りに立ち向かったり、自分の思う通りに物事を決めたり、進めたり、自由な振る舞いや行動するのに私だけが制限される。なんなら最後には邪魔扱いされる。年齢が若いからだろうか、”子供”だからだろうか。イッセイだって成人はしたけど一般的にいう大人より全然子供だ。まだ大学生である。今は大人のような顔をしているが。
色々と思考を巡らせるが、結局は自分が自分の思う通りに行動が出来ないことの方が許せなかった。自分は第一線に居たい。きっと何か出来ることが。思いつけることがあるかも知れない。その思いの方が、好奇心のようなワガママdが勝ってしまったのである。
「いいわ。自己責任で行く。私はバイクを降りないわ」
意外だった。誰も守らない、責任を取らないと言ったら大人しく親の車に乗ると思っていたイッセイ。少し怖がらせた自覚はある。できればそれで安全な場所を”リリ本人に選んで貰いたかった”のである。しかし彼女は違った。それに自己責任と言ったが、この場にいる男四人がそれぞれ思っている自己責任の度合いは違うだろう。そして、リリは誰か一人でも良いのだが、誰かの考えている”自己責任”をも理解していないだろう。彼女の考えている”自己責任”の想像の範囲を遥かに超えている事も気づいていないだろうが、もう仕方ない。後は身を以て体験してもらう他ないのである。
「・・・最上さん、良いですか?」
イッセイが保護者である最上をみると、最上は自分の顔・・・目に手のひらを当てて大層呆れたような、諦めたそうな素振りを見せた。
「ーーー娘の意志を尊重する」
「最上さん・・・」
隣でハンドルを握っている神風は同情したような顔をする。子がいない神風とて、この状況でもし自分の子供が同じようなわがままを言ったら隣の最上と同じように困り果てるだろう。
「まぁ、そもそもこの世界で育ったわけじゃのーかんな。価値観の相違じゃわい。もういいんでねぇか?好きにさせろ」
おじいちゃんが言う。そうだ、彼女は10年近くも別の世界で育ってきている。もちろん、箱入り娘なもので修羅場をくぐり抜けてきたなどではない。しかし、この世界での生活が短い故に価値観は今もなおズレている。今更言っても聞かないだろうとおじいちゃんがその場を収めようと口にした。
「でも!余裕があったらちゃんと助けてよね?!手が空いてるのに見捨てるとか許さないから!!」
「自己責任の意味っ!??!!」
『ちょっと!!まだなの?!いつまで魔法が続くかわからないんだけど?!』
キキが痺れを切らして会話に入り込んできた。
「すまない!!今すぐ向かう!じいちゃん、ぴょんきちの操縦頼んだよ!!」
「承知のすけっ!」
バイクのタイヤをスピンさせるように方向を変えてキキとデカブツの方へと向かった。
「キャァアアア!!!そんな方向転換の仕方しなくてもいいでしょ?!?!」
「喋らないで下さい。舌噛みますっ!」
「自己責任じゃっ!!」
そしてスピードを出してキキの元へ急いだ。
「キキ!待たせた!すまない!」
「小娘のせいじゃ!!」
「本当待ったわ!!デカブツに魔法かけると何されるかわからないから周りの空気に魔法かけてるの!!コントロールが難しくて!!」
「自然を操る力はすっごくすっごく難しいデス!!」
「狐も手伝え!」
「ふぇー!ココはこの手の魔法はお手伝い出来ないデス!!」
「ぺぇぇえええ!!」
「工場まで急ごう!!」
ぴょんきちの上にいるキキとココ。不安定ながらも魔法を使い、そしておじいちゃんの操縦でデカブツを再び運び始めた。
ーーーガガガ・・・・・・・ウィンウィンウィン・・・ガガガーーー
拘束バンドに逆らってデカブツが動こうとしている。キキはあくまでぴょんきちが運びやすくするための浮力コントロールを行なっているだけでデカブツ自体に魔法はかけていないのである。案外丈夫なこのバンドがあとどれくらい保つかが重要点だ。
バンドで拘束されていない部分はぴょんきちから遠い場所で勝手に動いている。しかし、あと一本でもバンドが外れればぴょんきちへ攻撃ができるだろう。そうすれば状況は一気に劣勢になってしまう。
そうなれば、ぴょんきちに乗っているキキとココが危ない。もちろん魔法が使えるから避けられはするだろうが、キキが魔法発動するよりもデカブツの動きが早かった場合だ。捕まったらおしまいだ。
イッセイはキキとデカブツの距離を離したいが、バイクは元々二人乗りな上に既に三人も乗っている。やはりリリを無理やり最上の車に乗せておくべきだったと早々に後悔をした。その時だった。
キュィィイイイイイイーーーーーー
デカブツから高い機械音が聞こえてきた。
「何かしら・・・この耳鳴りみたいな・・音ぉおおお?!」
「キキっ?!どうした?!一回離れろ!!」
「デカブツ!!自分の重力操作を始めたわっ!!!マジで重いんだけどぉぉーーー!!?」
「G操作かっ?!」
「無理ぃぃいいいい!!!」
ズドォォォオオオオオオン!!!!!!
ぴょんきちのアームが一本外れ、そのままデカブツは地面へと落ちた。地面はへこんだ。そしてすぐ様動く数本の足を動かして転がり始めたのである。そしてその方向はイッセイ達のバイクへ向かって来た。
ドカンっーー!!ドカンっーーー!!!
『止めるデスっ!!』
ココが光り出してデカブツの横転が一瞬止まった。しかし、本当に一瞬でまた派手な音を立てて横転を再開した。
「反撃魔法式かっ!?」
「多分その一種!!」
そのまま横転しながらイッセイたちの方へと向かうデカブツ。
「捕まって!!動くよ!!」
イッセイが先ほどと同じようにバイクを回転させてスピードを出して逃げようとした。その時だった。
「アッ!!!」
一度ハンドルを取られたその瞬間にリリが振り落とされたのである。
後方に落ちたリリをイッセイが視認した時にはもうデカブツが近くまで来ていた。もう一度ハンドルを切り返して戻ろうとした時だった。
車が猛スピードでイッセイたちの横を駆け抜けた。最上と神風の乗っていた公用車だ。公用車と言っても軍用車であるため大きく頑丈だが、デカブツと比較するとオモチャのようだ。
デカブツにぶつかる直前に最上と神風がそれぞれ席から飛び出して車だけをデカブツにぶつける。
一瞬の隙が出来た。
が、しかしその間も虚しくやはりデカブツはすぐに体制を整えてこちらへと向かってきた。ことは重なり、ここでデカブツを拘束していたバンドも虚しく千切れた。
「散れ!!とにかく一旦散るんじゃーーー!!」
おじいちゃんの声かけも虚しくデカブツに追いつかれたリリ。そして、デカブツの足がリリへと伸びだ。足の先は割れて人間の手のようだ。掴まれる。
追いかけられて、捕まりそうなリリ。まさかこんなことになるなんて。これならイッセイの言うことをちゃんと聞いて開けば良かったと恐怖と後悔に苛まれたその瞬間、もうデカブツの手足が目の前だった。
「リリッーーーーー!!!!」
その言葉と同時に最上が飛び出してリリを突き飛ばした。
「パパッッ?!?!?」
デカブツの手足が伸び、最上を掴んだ。そして、入口の開かれた操縦席へと放り込まれた。
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