第2話:魔法
「うわ、人っぽい・・・?なんで今日、このタイミングなんだよ・・・」
この部屋が最上階でほとんど人の来ない場所で良かった。と冷静に考えながら、鏡をみていると、鏡面からは人の頭から、顔、首、・・・・女性だ。そして体が出てきて、最後に足が出てきた。重力に反して浮き上がった。
そこで、光が途切れ、鏡には太陽光だけが反射した。
ーーートンッ・・・
「はぁああああ!!!!やっと来れた!!!あら!こんにちは!」
イッセイは、鏡から出てきて自分の目の前に降り立った銀髪の女性を見てため息をついた。
「良かったーーー!なるほどね!こんなガラクタの中に埋まってたのねこの鏡!通りで何回試しても通れなかったわけだわ!私が出れる空間が確保されないと繋がらないみたいね。助かったわ!もうね!試して三日目だったの!なかなか異動できないから私が悪いんじゃないかってすごく疑われ始めて大変だったのよ?!」
鏡から出てきた女性がずっと喋っている。イッセイは、次の講義に行く為に持っていたパソコンを開き、カタカタとキーボードを打ち始めた。
「ねぇ、私の話聞いてる?」
「多分ちゃんと聞けてますよ」
「何その返事?!?!こっち見なさいよ!人と話す時は目を見て話しなさいって教わらなかったの?!」
イッセイは頬を引っ張られた。
「イタタタ・・・ちょっ、俺がこのまま貴方を放置しても良いなら別に良いですけど・・・あれ?そういえば、ご自身がなんで今ココにいるのかわかってるんですね?」
イッセイは、パソコンで作業をしていた手を止め、顔を引っ張られて向けられた方向に素直に向き始めてちゃんと女性の顔を見た。
銀髪の長髪。高い位置で一本で結っている。目は赤い。年は自分よりは上だろうか。そしてなんだこの服装は。神社の神主が神事の時に着るような斎服に似た物だが、下半身は隣の国のように大層深いスリットが入っている。彼女の世界はそういう感じの国なのだろうか。
「わかるも何も!私の使命だから自分でこの世界に来たのよ!ちゃんと持って帰らないとまた文句言われるからね!」
「・・・そうですか。じゃぁ、自分の意思で来たなら俺がとやかく言ったり何かする必要もないですよね。自己責任だから」
「何それちょっと言い方冷たいんだけどっ!!」
この世界は、街中、そして、普段人が使う地下通路の至る所に『網膜認証システム』が設置されている。いわゆる監視カメラだが、それだけではない。瞳の網膜まで読み取り、誰がどこにいるのかが瞬時にわかるシステムである。産まれた時に網膜パターンを登録して、ずっと管理されているのだ。
犯罪を起こそうものならすぐに捕まる。そして、網膜パターンの登録がない人間=異世界人なのである。登録のない網膜パターンに遭遇した時、警報が鳴り響く。そして、国が隠している機関に捕まるのだ。
「この世界・・・少なくともこの国では、国が管理している網膜パターンに該当しない人間がいた場合、割とすぐに捕まって監禁とかされます。注意事項はそれくらいですので頑張ってください。あと、むやみに”外”に出ること自体出来ないのであまり気にしなくて良いと思いますが、外は大気汚染がすごいので、それも気をつけてください」
「大丈夫よ!私魔法が使えるからすぐに逃げられるし!」
「あぁ、そうでしたか。じゃぁ良かったです。では、俺講義に遅刻するんで失礼します。よくわかりませんが、自力で元の世界に還って下さいね」
そう言って、イッセイは部屋の扉を開けようとした。
「待ちなさい!逃さないわよ!!」
女性は手を翳して、イッセイと扉に向けた。
「は?逃すも何もないじゃないですか?好きにして下さって良いですよ?あぁ、もちろん器物損壊とか犯罪はしないでくださいね?」
ガチャッーーー
イッセイは扉を開けてそのまま部屋を出た。
「えぇえええー!?あれっ?!うそっ!!何でっ?!」
女性が後ろで騒いでいるのを気にせずイッセイは部屋を出た・・・その後ろから女性が走って追いかけてきた。
「待って!待って!なんで?!なんで扉開けたの?!」
「なんでって・・・遅刻するから・・・」
「違うわよ?!私扉に鍵掛けて、開かない魔法掛けたのよ?!なんで?!貴方も魔法使えるの?!」
「使えませんよ・・・」
「そうよね、そもそも使えたとして、私程の魔力を持ってる人間がかけた魔法を破ったらもう貴方は魔王レベルよ・・・じゃあなんで・・・」
ブツブツと何か言い始めた女性にイッセイは諦めて向き合うことにした。
「多分、貴方の世界の魔法がこの世界ではそもそも発動しないか、発動しても弱いか、もしくは何かこの世界で魔法が発動しない原因があるかじゃないですか?」
「信じられない!!じゃぁ私ただのポンコツなんだけど?!」
「・・・仕方ないか。講義は諦めるか。改めまして、俺の名前はイッセイです。なんでか、ここ数年よく異世界人に遭遇します」
「私の名前はキキよ!!宜しくね!!」
彼女はこの状況をわかっているのだろうか。ここは大学だ。部屋の近くでも監視カメラがあり、あと数分もすれば定時の網膜スキャンの時間になる。これは早急にパソコンに仕込んでいる磁場発生装置を起動しなければ彼女はすぐに捕まってしまう。
彼女は今までの異世界人の”カナン”とも”リリ”とも違う。みんなこの世界に来て、最初はここが何処だかわかっていなかった。しかし、彼女は自分の意思で来たと説明した。
異世界に”強制的に異世界に飛ばされた人間”と”自分の意思で異世界にくる人間”がいる。後者の場合、自分が今までのように匿ったり助けたりする必要はないとイッセイは判断した。つまり、目の前の彼女も本来は助ける必要はないのである。おまけに彼女は魔法が使えるらしいし。とりあえず、今はその魔法が使えない以上自分と同じただの人間であろう彼女を少し不憫に思い、手助けをしようと決めた。
イッセイは部屋に入り扉を閉めて、またパソコンを開いてカタカタと打ち始めた。
・・・ーーー
「ちょっとイッセイ・・・何よその女っ・・・!」
イッセイとキキが工場へ着いた。出迎えたリリが微塵も隠さずに不機嫌を露わにしている。
「何よっ!!そのスカートだかなんだかよくわからない切れ込みの深い服っ・・・!!」
「イッセイ!!お前また拾ってきたんか?!」
「またって・・・リリさんの時はばあちゃんだったじゃないか」
「私の事拾ってきたとか言わないで!!」
「あらあら!これはまた綺麗な人ねぇ!」
「私!キキって言うの!宜しくね!」
人が好みそうな笑顔でキキがおばあちゃんに挨拶をした。
「キキ、紹介する。こっちが俺の祖父。こっちが祖母。で、こちらが」
「イッセイのガールフレンドのリリよ!!」
リリが胸を張って言った。
「ガールフレンド・・・あぁ!”女の子”の”友達”ね!はいはい!宜しくね!」
「違うわよっ!!」
「こら娘、嘘をつくでない・・・っちゅーか娘二人に増えたらワシなんて呼べば良いんじゃ面倒じゃなぁ?!」
「”娘”呼びをまず変えなさいよ」
おじいちゃんとリリの言い合いがまた始まり、イッセイは2人を置いて食事をする部屋へとキキを連れて行った。
「わぁ!!凄い!凄い!お弁当だわぁ!!美味しそう!これ全部おばあちゃんが作ったの?!」
おばあちゃんが開いた重箱を見てキキが嬉しそうに声を上げた。
「さっきの女の子、リリちゃんと一緒に作ったんですよ。卵はリリちゃんが焼いたんです。ねぇ?結構上手でしょう?器用な子なのよ。さぁ、キキちゃんも召し上がれ」
「やったー!嬉しい!頂きます!」
楽しそうにお弁当のおかずを右手の箸で取り、左手はおにぎりを持っているキキを見て、イッセイは食事の後まで話をするのは辞めようと考えたが、やはり好奇心には勝てなかった。
「…キキ、箸使った事あるのか?」
「なんでもあるわ。箸もフォークもナイフもスプーンも全部使えるわ!」
「主食は?」
「お米よ!良かったわ!この世界のこの国にもお米があって!ちょっと別件で別の世界に飛ばされた時はお米なくてなんかもうやる気出なかったわ!」
「別の世界…キキの世界は魔法があるんだよね?その…機械は、どんな感じ?」
「機械?機械?・・・この世界の機械の概念がわからないからなんともいえないけど、機械で移動したりするわよ。車とか、バイクとか、バス、電車・・・あと飛行機もあるし船もあるわ。そんな事聞いてどうしたのよ」
「あ、いや、俺機械好きだから気になっちゃって・・・」
「ご飯食べたらいくらでも話ししてあげるわ!・・・じゃなくて、それよりもっと大事な話ししなくちゃいけなかったんだわ。あら、あの子の作った卵焼き美味しいわね!」
キキが卵焼きを食べた時、おじいちゃんと言い合いをしていたリリがちょうど部屋に入ってきた。
「なんで貴女が食べてるのよ!それはイッセイに作ったのに!!!」
「あらごめんなさい。でもまだあるから大丈夫よ!はい、イッセイどうぞ、あーん」
そう言って、自分の箸を自在に使い、新しく掴んだ卵焼きをイッセイの口に放り込んだ。
「ね?美味しいでしょ?」
「ん、んん」
「良かったじゃない!美味しいって!」
「イチャつくの辞めなさいよ!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます