狐の嫁入り 三部〜波動ノ音〜

すぎざき 朱

第1話:鏡面




『生マレタ…!!』



『ツイニ!生マレタ!!』



『適性持チガ生マレタ…!!!!!』





『ヤット生マレタノニ』





『ズット、待ッテイタ適性持チガ









"女"ダッタナンテ……』








・・・ーーー







「…良い年になったなぁ…」



「え?じいちゃんまだ3月だよ?桜も咲き終わってないのにもう今年終わった気でいるの?あれ、もしかして」

「そう言う意味の"良い年になったなぁ…"じゃないわい!!ボケてもないわい!お前の年だよ!年齢!!エイジ!!!」

「なんで俺の年なの」

「イッセイがもう"二十歳"で成人を迎えたからですよ」

「お前と二十年も一緒に暮らしてるのに、機械バカ以外お前の事今だにわからんことが多いわ!飄々としてて!似てるのは機械に対する執着心と好奇心とかなんかそこらへんの感じだけだわい!」

「十分に似てるし分かり易いと思うけどなぁ」



 発明家の祖父を持つ青年【イッセイ】は、スキンヘッドで筋肉隆々の祖父と、常に感情穏やかな祖母と三人で暮らしている。本人に自覚はないが、興味のある機械以外に関しては割と関心が薄く、周りからは”クール”だと思われている。



「ねぇ!!このクロワッサン美味しいわ!どこのかしら!今度ママと一緒に買いに行くわ!この大きさだと、”シュリ”が一人で食べるにはちょっと大きいわね?まぁ、半分は私が食べてあげれば良いんだわ!そうしたら残さないし私もいっぱい食べれるから嬉しいし!」

「太るぞい」

「おじいちゃんはどうしてレディにそういう事を言うわけ?!」

「ふーんだ!レディは毎日人ん家に上がり込んででかい声で騒いでクロワッサン食ったりせんわい!」

「クロワッサンは今日だけでしょ?!昨日はどら焼きだったんだから!!」

「毎日とクロワッサンはセットにせんでええ!!」


 クロワッサンをキラキラした目で食べている少女。名はリリ。リリはイッセイの家に頻繁に遊びに来る。今日も今日とて朝からだ。リリは六年前にこの世界に生まれてすぐに他の異世界に誘拐・・・というより転送をされた。そして、一年前にこの世界に戻ってきた。リリが行っていた世界は、この世界とは時間の流れが倍違う。彼女は生まれたばかりの六年前に誘拐されたが、現在は十二歳になる。しかし、まだこの世界の学校には通っていない。そのため、朝からこうしてイッセイの家に遊びに来るのだ。

 頭の回転もよく、物覚えも良い彼女だが、物心ついた頃から十一年育ってきたその世界から、本来の世界に戻ってきたが、幾分世界の常識があまりにも違いすぎる。両親やイッセイ達が沢山教えたとて中々覚えきれるわけではない。海外留学とは話が違うのである。


 国が違うだけなら、物理学など環境問題などは変わらない。しかし、次元が違うときた。環境問題である温暖化や砂漠化、元素記号と言っている記号の文字も違う。非常に助かったのは、なぜだか彼女はこちらの世界の言葉を理解できること。今年十二歳になる彼女は、この世界に戻ってきてすぐには学校に通わせず、漸く来月から中学校二年に編入をする。その為、現在は学校に通う前の自由な時間を存分に楽しんでいる所だ。


「今日は、おばあちゃんと一緒にご飯を作る予定なの!イッセイお昼には帰ってくる?一緒に食べましょうよ!」

「えっと、今日はちょっとだけ遅くなるかな。14時くらいには帰って来れると思うけど」

「はぁ?イッセイ工場に来ないのか?!」

「なんでよ!ここで食べた方が落ち着いて食べれるじゃない?!」


「じゃぁ、お弁当にして、工場まで持っていきましょうか?」

おばあちゃんがのほほんと会話に入ってきた。


「・・・おばあちゃんがそう言うなら・・・」

「娘もばあさんの言うことは聞くんだな。というか!お前さん料理なんて自分の母親から教わればいいだろうが!」

「ママは忙しいの!シュリを”ホイクエン”に送って、そのままお仕事してくるんだから!」

「お前のポヤポヤしたカーチャンなんの仕事してんだ?」

「なんか、良い香りだったり、見た目綺麗な”キャンドル”って言うのを作ってるらしいわ!ウチにはまだ小さいシュリがいるから、家ではそれを使わないから見たことないんだけど!」

「あぁ、なるほど。感性で生きる人には良い仕事だな」

「もしかして今、バカにした!?」

「全くしとらん」




「じゃぁ、リリちゃん!今日はだし巻き卵を作りましょうね?」

「はーい!」


 おばあちゃんがうまく話をまとめたり誘導してくれるおかげで、おじいちゃんとリリの行き着く先を知らない会話は止められた。そのタイミングをちょうど良いと思ったイッセイが声を掛けた。


「じゃあ、大学行ってくるね」

「はい、行ってらっしゃいな。気をつけてね」

「じゃーなー」

「お弁当持って行くから、お菓子食べちゃダメよ!!」



 イッセイは5年制の高校を卒業する年に異世界から来た”カナン”という少女に出会った。そしてカナンを自身の祖父が所有する研究所兼工場で作った自作の次元転移装置で元の世界に還したのが一昨年。そして、昨年自身が大学一年生の年にリリがこの世界に戻ってきた。

 リリは元々この世界の生まれだったからカウントして良いか正直イッセイは悩んだが、それにしても異世界人が来るペースが早いと感じる。

カナンの前に異世界人が来たのは当時からしての五年前だが、その間にも本当は来ていたのではないかと考えながらイッセイは大学へと向かった。











「えっと、確かこの辺だって言ってたな・・・」



 大学の屋上に当たる部屋でイッセイは探し物をしている。それは、懇意にしている教授に頼まれたものだった。最上階のその部屋には、古びたガラクタの様な骨董品が乱雑に置かれている。天井がガラスになっており、陽の光が入り込むこの部屋を倉庫とするには全くもって適さないのではないかと常日頃から考えているが、きっと貰えた部屋がここしか無かったのであろう。


 ガラスの天井の向こうに見えるは、一見綺麗な晴天だ。咲き始めたばかりの桜の花びらが風に煽られて舞っているのがたまに映る。しかし、ガラスは非常に汚れている。砂埃、そして、黒ずんでもいる。大気汚染だ。イッセイのおじいちゃんが子供の頃から始まった環境汚染。海の水位は上がり、この大学の一階部分のはめ殺し窓も半分は水に浸かっている。

 確かに夏は暑いには暑いが、異常なほどではないのだが、年々少しずつ水位が上がっている。


 大気が酷く汚れてはいるものの、水があるからか、植物はよく育つ。しかし、しっかりと管理していないと野菜などは食べれたものではない。食しているほとんどの野菜は温室で育てている。


「あ、あったあった。これの事だな」

 

 話の合う教授に頼まれて倉庫で探し物をしていたイッセイ。目当てのよくわからないブツを見つけたので、約束していた通りに部屋の扉の近くの机に置いた。あとは、今日か明日に教授が来た時にこれを持っていくだろう。その礼として、教授が調べている研究を今度見せてもらう約束をしている。


 休み時間も終わる事だしと部屋を出ようとしたイッセイだが、部屋の中の乱雑に置かれていた物が崩れた。



 ガタッーーガタガタッ・・・!!!



(しまった。なんか鏡みたいのもあったんだよな・・・)

 そう思い、崩れたであろう場所に向かおうとしたら、今しがた頭に浮かんだ鏡が床に落ちた。そして、天井からの太陽光が鏡面に当たったその瞬間、太陽光以上に眩しく光った。



 パァアアアアアーーー・・・



 太陽光だけじゃない、鏡面そのものが発光している。



「は?」



 普段あまり驚く顔をしないイッセイも流石に驚き目を見開いた。

怪しいと思いながらもこのままにしておくわけには行かないと思い、ゆっくりと近づく。光を反射しているだけではない鏡。鏡面が揺れてる様にさえ見える。触っても大丈夫なものか・・と、手が汚れない為にと持ってきた手袋を嵌めて鏡に触れた。その瞬間





 スゥウウウーーーー




 鏡面から光だけでなく、人の頭が出てきた。


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