間違い電話狂騒局
糸川透
1 もしもし
少女は電話機を前に、覚悟を決めた表情で立っていた。微かながら彼女の手は震えている。それも必然である。彼女は今から意中の人に電話を掛けるのだ。
中学二年生であるミコトは、先日、同じクラスの大野くんと花火大会に行く約束をした。ミコトは大野くんが誘いを快諾してくれるかひどく心配していたが、大野くんははじめ驚いた顔をしたものの、快く誘いを受け入れてくれた。
しかし当日である今日、ミコトは自分のした重大なミスに気づいた。駅での集合時間を七時としていたが、花火大会はその七時から始まるらしく、会場に着いた時には花火は終わってしまっている。集合時間の訂正を大野くんに伝えるべく、ミコトは彼に電話をしようと決意したのだった。
今、家にはミコトしかいない。お母さんはパートがあるのでしばらく帰ってこず、お父さんはスーパーに買い物に行っている。誰の目も気にすることなく電話ができる状況だ。
ミコトは受話器を手に取り、大野くんの携帯の電話番号を、ひとつひとつ確かめるように打っていった。これまでに何度も大野くんと電話をしているが、掛ける時は相変わらず緊張する。そもそもミコトは電話が苦手であった。特に、電話が繋がった後の一瞬の沈黙が嫌だった。できれば電話はしたくない。LINEなどの方が気楽だ。だが大野くんにはどうしても電話で伝えなければならないのだ。
ミコトは受話器の発信ボタンを押して、プルルルル、プルルルルと鳴る受話器を耳に当てて電話が繋がるのを待った。受話器を握る手は少し汗ばんでいた。呼び出し音が数回繰り返されたのち、「ガチャ」という音が小さく鳴った。
よし、繋がった。
ミコトは息を吸って、受話器の向こう側にいるであろう大野くんに向かって呼びかけた。
「もしもし」
数秒の沈黙が流れた後、ミコトが耳にした声は大野くんのものではなかった。
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