第25話 悠、人生の美学を獲得する
葛城先輩は、その美しい顔を歪め、悪そうな笑みを浮かべながら、ゆっくり交互に二人を見つめた。
二人とは、曽爾悠とタイ人留学生ホンさんである。
悠はゴクリ…と喉を鳴らし、ホンさんは「ややややや…」と言葉にならない音を発しながら、大きく見開いた目で葛城先輩を見つめている。
「取り憑かれている人間が好意を感じている相手なら…」
「相手なら…なんなんすか?」
「取り憑いているそれもその相手が好きになるんよ!」葛城先輩、めっちゃドヤ顔。
「な…な…なんと…?」それってどういう意味なんや…。
「あああああああ…チャイルー?チャイルー?」ホンさんが叫ぶ。何言ってるんだか分からない。でも顔は真っ赤になっている。きっと「マジ?それマジなん?」みたいなリアクションなんやろな、と悠は想像した。
「あるいは…」
「まだなんかあるんすか?」
「あんねん!よう聞いてや!」葛城先輩が急にオバちゃん化した気がする。
「そもそも悠君はホンちゃんを怖がっていない。変な先入観がない分、影響を受けないのかも」
「ああ…心理的なものですかね」
「そやね。まあ、そのどちらの可能性もあるし、案外両方の要因が作用しているのかも知れへんね」
「ほな、日本にいるうちは、そんなに強い人形に封じ込めなくても、なんとかいけるんじゃないか、ということですかね」
「そうそう。あとはホンちゃんが激しく感情を動かすような出来事がなく、日々穏やかに過ごせていれば、そもそも人形も壊れないし」 まあ、そのためには悠君の力がちょいと必要になるかもやけど…と葛城先輩が意味ありげな視線を送ってきた。
「あ、俺に手伝えることがあるなら、何でも言ってください!今回の件ではお世話になってるし、恩返しもしたいんで」
「うんうん。悠君、良い心がけや」葛城先輩が目を細めて頷く。
「本当に?本当に、人形は壊れない?」ホンさんが心配そうに尋ねる。
「父が昨晩、デーンさんに電話して話したみたい。デーンさんも同じようなことを言ってらしたらしい」
「日本に居れば大丈夫、って?」
「まあ、そんな感じ」
ホンさんの表情がみるみる明るくなる。
「それに、そろそろホンちゃんも取り憑いているそれの制御方法を学ばなきゃね」
「セーギョ?」
「そうそう。コントロールする方法。いつまでも土人形に頼っていてはダメでしょ」
「そうですね…」ホンさんは少し考え込む。でも、希望が出てきたせいか、表情は暗くない。
「正直言って、俺、葛城先輩とホンさんに出会えて良かったです。今までの俺って、孤独というか、誰にも相談できずに色々抱え込んでいて、自分が異常なんじゃないか、って気持ちが常にあって、それを知らないように、普通っぽく生きなきゃ、ってそればかり考えてました」
悠はこの数ヶ月のことを考えていた。ゼミに入って、学棟で幽霊に遭遇して、その時は、はからずも見えてしまった自分の事が本当に嫌だったし、呪われているような感覚に陥っていた。でも、同じような体験を共有する人々に遭遇し、霊なりの「理(ことわり)」や人間との関係を考えているうちに、霊に遭遇することがさして特殊な事には思えなくなってきたのである。もちろん油断は禁物である。悠だって怖くないといえば嘘になる。自分から幽霊に出会うべく廃墟を訪れるなど、愚の骨頂であると思っている。
でも、普通に日々を過ごす中で避けて通れない霊絡みの案件に遭遇することはあるのだ。そしてそれは葛城先輩やホンさん、リキ君にとってはもはや日常の延長なのだ。いちいち「見えちゃったよ、どうするよ」とか騒ぐような話ではないのかも知れない。
霊はどうしたいのか、悠自身に何ができるのか、その都度、その方法を考えていくしかない。今の悠はそう割り切れるまでに成長している。
「そうやね。うん…でもまあ、良いスタートは切れたかもね」葛城先輩は悠の発言を肯定してくれた。
「文学部棟のあの変な男、どうする?また来るよ。きっと悠君にしつこくしつこく迫ってくるよ」ここでホンさんがふと思い出して不安そうな表情を浮かべながら、悠を見つめる。
そうだ…忘れてた。あの70年代男や。
あれをどないかせんといかん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます