碧央とデート⑤ 家族になろう(意味深)


 誰もいない田舎の夜道とはいえ、暗い中を女の子ひとりに歩かせるわけにはいかない。迎えに行く。いつもの十字路で合流して、家路に就く。


「いらっしゃい」

「お、おじゃまします……!」


 ロフトに上がると────僕のベッドで碧央が寝ていた。ベッドの端っこで横になっていて、ご丁寧に真ん中を空けてくれている。


「オイ。お前はヨガマットで寝ろ」

「私も風梨みたいに優しく言ってほしい……」


 ならそっちも無法をやめたまえ。

 風梨は友人。碧央は悪友。しぐれは女友達。そんな感じだ。そのため悪友相手だと、僕の口も悪くなる。


「ハァ。僕も寝る……」


 振り返りながらダイブ。ベッドの真ん中に背中を跳ねさせる。


「碧央。触れてきたら罰を与える」

「なんの罰?」

「その時までないしょ」


 風梨がロフトに上がってくる。あの黒いネグリジェに着替えてきた。ご丁寧に黒い猫耳カチューシャを付けている。


「風梨……それ好きなの?」

「ふわっ……え、えと……康太くんは?」

「たまにがいいかな」


 そう言うと風梨はさっそく外した。なんで僕の意向を基準にしたがるのか。気になったので聞いてみる。


「あのさ。なんで猫耳を付けようと思ったの?」

「えっ!? だ、だって……────か、かわいく、思われたかった、から……」

「────風梨」

「は、はい……!」

「その考え自体が既に可愛いし、そもそもそのままでも可愛いし、猫耳追加されたらもっと可愛くて狂っちゃうよ」

「────ふぇぁ……っ」


 僕の幼馴染が可愛すぎる。

 左側に碧央。右側はカラ。トントンと叩いて手招き。さっさと横に寝ろ。


「っ……」


 風梨は横に寝そべってくる。これで安心だ。左の暴君が襲ってきても、すぐに右の女神に守ってもらえる。

 すると暴君がなんか言い始めた。


「風梨は可愛く見られたい。康太はカッコよく見られたい。お似合いだね」

「碧央はどうなんだよ」

「私は既に可愛い」

「……」


 否定できない。それが悔しい。

 正直、変態的な側面は手放しに賞賛できない。なぜなら変態だから。でも単純に外見は綺麗だし、面倒な内面も素直で賢い。イイ女だと思う。


 でも僕は風梨と一線を越えてしまった。だからこの話はここで終わりなんだ。暴君の望む未来にはならないぞ。申し訳ないけど、振られてくれ。


「…………」


 めっちゃ左の暴君あおから視線を感じる……なんか気まずいんだけど。


「……なに?」

「康太は幸せ者。三人の幼馴染に好意を抱かれてる」

「しぐれはまだ分からないでしょ」

「うわっ。……今ここにしぐれがいなくて良かった。今の聞いたら、たぶん心の中で泣いちゃうよ」


 ……そ、そうなの?


「康太くん……きらい」


 ふうりからも!?


「え、なに!? 僕ってそんなに……鈍感とか言いたいわけ?」


 たずねた次の瞬間、左右から脇腹にグーパンと肘打ちを喰らった。

 風梨がグーパンで、碧央が肘打ちだ。うそだろ……そこは逆じゃないのか……。


「ぐふっ! っ……す、スミマセン、でした……ッ!!」


 いやでもだって、さぁ……? 二人がちょっと怒るってことは、つまりそれなりにアタックしてた……ってことでしょ? 何がアタックだったの? ちゃんと分かるようにアプローチしないと相手は気づいてくれないよ? たとえばしぐれは何をしたのさ。大抵こういうのはボディタッチだけど、あいつ昔からハグするじゃん。中学生になっても高校生になっても。や、そりゃあ僕以外にすることはなくなったけど……じゃあ『なんでハグするの?』って聞いた時『え? 幼馴染だから!』という返答。あれはどう解釈すればいいんだ。あれ実は建前で、本当はアプローチしてたってこと? いや分かるかぁ!! そういう言い訳をするから、こっちも真面目に受け取って『そうか。あくまで幼馴染としてスキンシップ取ってくるのか』ってなるじゃん! そこで曖昧にごまかされたりとかしたら、さすがの僕も気づくよ! はじらいのひとつでもあればバカでも分かるよ!


「うわっ。めんどくせぇ……」

「ふわっ……」

「女の子は面倒なんだよ」


 そうですか。さいですか。

 ならこちらからも助言があります。


「男の子は誤解するんだよ。だからそういうふうに誘導しなさい」

「ふわ……」

「なるほど。誘導しないと何もしてこない女々しい男子とか、クソ面倒だね」


 言われてしまったが、色々とお互い様だった。


「仲直り」

「うんっ」

「いいよ」


 ふたりと握手。


「さて、碧央。電気消してくれる?」

「まだ夜の九時だよ?」

「僕はもう疲れた……主に面倒な女子系幼馴染のせいで……」

「女子系って何。そこは幼馴染系女子と言うべき。逆。……もしかして私達の性別──『性別:幼馴染』──とか思ってた?」

「……あながち、間違いではないかも……」


 風梨が「ふわっ!?」と多めの息を吐き出す。

 消灯。エアコンは付けてある。涼しい気温で就寝する。少なくとも僕は寝る。


「ふたりとも、まだ活動したいなら好きにすればいい」

「じゃあ風梨おしゃべりしよう」

「うんっ」

「……え、ここで? 僕が寝ようとしてる横で? ──じゃあ小声でお願いします」


 両隣からひそひそ話。その声がくすぐったい。小声は失敗したかも。

 しかも碧央はたまに、わざと僕の耳に吐息を吹きかけてる気がする。


「小一の頃、こうやって寝たね。あの時は雑魚寝だけど」

「ふわっ……なつかしい。九人くらいで、ね……?」

「男子五人、女子四人くらいだっけ。しぐれの寝室でね。ダブルベッドだから、九人でもギリギリ寝られた」

「でも……朝起きたら、何人か落ちてたよね?」

「しぐれの親御さんが、落ちた音がして駆け込んだら、寝たままだからびっくりした。って話してたの覚えてる」

「ふふっ……床に落ちたまま寝てた子の中には、康太くんもいたよね」

「康太は昔から寝相が悪い」


 覚えてない。

 その後も流れに流れる会話。寝落ちするかと思いきや、やっぱりちょっと早かったのか全然眠れない。といってもたまに「康太くん。寝てる?」「康太。起きてる?」などと聞いてくるものだから、呼びかけも相まってなかなか眠れない。こいつら僕を寝かせる気あるのか。絶対ないだろ。でも僕は寝てやる。絶対にだ。


 やがて気になる会話が耳に入ってくる。


「風梨。康太、寝たと思う?」

「……たぶん?」

「じゃあ反省会と作戦会議。なんで今まで康太は、私達に手を出さなかったと思う?」

「ふわっ……」

「たぶん、家族みたいに距離が近すぎたから」

「…………」

「? 風梨?」


 風梨のことだ。僕が昨日話した懺悔を思い出してるんだろう。


「……で、もしそうなら、いっそのこと本当の家族になればいい」

「ふわ──!」

「もう恋人にはなれない。既に熟年夫婦。なら本当に夫婦になればいい。つまり────」

「既成事実で責任取らせる」


 女神からとんでもない発言が飛び出てきた。やっぱりこの女神さま堕天してる……さすがにこれは碧央じゃないな。なら誰の入れ知恵だ? まさか熊みたいに怖い女神のママさんか?


「……まぁそういうこと。つまりという関係から、一気に一線越えてになろう」

「ふわっ……逆転発想……!」


 僕の幼馴染達が恐ろしい件について。


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