碧央とデート④ ダブルお泊り会
「康太」
無視する。
「好き♡」
耳元でささやかれる声が甘酸っぱくてふにゃけてしまう。
「康太」
全身脱力中。苛立って腕に筋肉を入れようとするけど、追い打ちを受けると力が抜けてしまう。
「大好き……」
耳元にぶち込まれる声がまっすぐすぎて、本気で照れくさくなってしまう。
「なにその可変式の告白! 甘い声と真面目な声の使い分けやめろよ!」
「男のやめろはもっとしての合図。女のやめろももっとしての合図。つまり男女は揃うとえっち♡」
「そこに変態が混ざるとギャグになるため激萎え注意」
「む……」
何か思う所でもあったのか、うつむく碧央は腕を組んで真剣に悩み出す。
対する僕はゲームに集中して気を逸らす。碧央の良い匂いだとか、すりすり体の横を合わせてくる手つきやら腰やら足先やら、肩に寄りかかる頭とか、そういう誘惑を払いのけるためゲームに集中する。
もちろん外に逃げる算段もあった。が、先ほど見事に、その意欲を削がれてしまった。
どうも今日は過去最高気温の炎天下。汗ばむシャツが肌にぴっちりとくっついて気持ち悪いよ。パンツもズボンも靴下も靴もだよ。私は夜までいるから、康太が朝から夕方まで外に居たら日焼けして、海帰りの背中の皮むけむけの時みたいに痛くなるよ。あ、今のえっちだね。……などと碧央に説得されて、酷暑は嫌なので流されてしまった。
「康太康太。外に出かけてもいいよ? 私も付いてくけど」
「それってデートしたいって遠回しに言ってる?」
「おうちデートの方が私は好き。ずっとこうやってくっつけるのは家の中だけ♡」
肘打ちで追放する。
「いやん。嬉しいくせに突き放すのってドMなの……?」
「自分の胸に聞いてみな」
「どうしよう。康太の冷め具合が例年にないレベル……」
「そりゃ先輩のことネタにされたからね」
「ごめんなさい。でも事実しか言ってないと思う」
だから苛立ってんだよ。正論だけ追求して情緒を無視するんじゃあない。僕はそこまで完璧じゃないんだ。
「なんで合理的な人ってさ。情緒無視するの? 人の心も織り込んだ方が合理的だよね」
「だからそうしてるけど?」
つまり今の僕の気持ちも計算ずくってわけかよコイツ……マジでさぁ……もうさぁ……。
「碧央みたい人って、サブカルだとなんて言うんだっけ?」
「メスガキ♡」
「見た目はザ・生徒会長みたいな大和撫子なのにね……髪型がポニテなのも活発系に見えるのにね……ほんと人は見かけによらないね……」
「お淑やかと生意気は両立する。証拠は私の外見と性格」
「ぐうの音も出ない」
他愛もない話で場を流し続ける。
気づけばお腹が空いてきた。きゅるきゅると腹の虫が鳴る。
「私がお昼ご飯作る」
「え、ちょ……碧央、作れるの?」
「たぶん」
たぶんってオイ。
「……いっしょに作るよ」
「ありがとう。じゃあさっそくウェディングケーキを切ろう」
「いきなりゴールインを画策しないで」
もうケーキ入刀は風梨とするって決めてんだ。
そして僕がハシゴに向かおうとすると、碧央はなぜか座卓に向かう。そこには大量のカップ麺。
「見つけた。ちゃんと私の欲しい味がある。さすが風梨」
「────」
点と点が線で繋がる。
「そこも共犯かよ……」
「むしろなんで気づかなかったの?」
「バカだから?」
「それもあるけど、昨日の今日で色々ありすぎたから」
それはそうだ。まったく視野の外だった。
大量のカップ麺の存在を忘れて、普通に料理しようと台所に向かうつもりだった。冷蔵庫の中に何があったっけーってのんきに考えてた。
「……でも野菜も取らないと。炒めてくるよ」
「私も手伝う。というか私がやる。教えて?」
「……いいけど……」
……かれこれ十時間。ひたすらゲームに没頭して、夕飯も一緒に作り豪勢なカップ麺を食べた。
夜も更けてきて寝る時間が迫る。だけど碧央は帰ろうとしない。帰れと言って従う奴でもない。
「つまり僕は理性を試されるってことか」
「ようやく実感が湧いてきた?」
「最初に断っておく。無理だ」
「! ……弱気だね」
「弱気じゃない。事実だよ。となりに可愛い子がいて、両思いで、こっちの夜這いを望んでて……なんならそっちから襲ってきそうで。それで食べないのは無理だ」
「──……じ、じゃあ、風梨は?」
そこが問題だ。そこで閃いた。バカな僕でも賢い時はある。
破天荒には破天荒だ。ゲームしてたことで閃いた作戦でもある。今やってるゲームは基本的に、バトルするときのパーティーは四人まで。けど例外的に、イベントキャラが五人目として参戦する時がある。この追加戦士という点で、僕は策を練った。
スマホを手に取る。風梨に電話をかける。ツーコールで出た。
『──ふわっ……こ、康太くん……どうしたの……?』
「ごめん。風梨。できれば今日も僕の家に泊まってくれない?」
「わお。そう来ると思った♡」
あれ? その反応……もしかして狙い通りですか?
まぁいいや。どうせ碧央は、僕に添い寝してくる。すると僕は我慢できない。なら、そこに風梨もいたら? 僕は風梨に対しては我慢しなくていい。碧央はおあずけを喰らうけど、ドMの変態だからむしろ喜ぶだろう。今のもそれで喜んでたと思っておく。
『え、で、でも……今日は、碧央ちゃんとお泊まり会じゃ……』
「碧央も乗り気だから。もしかして予定空いてない?」
『……あ、空いてる、けど……ち、ちょっと、待っててね!』
「うん」
通話が切られた。
おそらく両親に相談してるんだろう。……僕の家にお泊まり会してもいいか相談……高校生の身で男女一つ屋根の下は、さすがになぁ……でも昨日も泊まり込んだんだ。つまり風梨は両親の説得を得てきたという事。一度取れたのなら二度目も可能だろう。
あー、恥ずかしい。完全にそういうもんだと思われたってこれ……いかがわしいよ。僕まだちゃんと風梨に交際の告白してないのに……完全に順番が逆になってる……。
「逆でいいじゃん」
「お願いしますから思考を読んでこないでください」
あれ? そうだ。親の許可といえば。
「碧央は……親にはなんて言ってきたの?」
「別に何も。適当言ってきた」
「マジで。大丈夫?」
「バレても構わない」
だろうなぁ。碧央はそういう感じだ。両親だろうが教師だろうが、何が相手でものらりくらりと躱して自由に生きていける賢さがある。
でも待てよ。なんか引っかかるな……ふたりの女の子が、男の家に寝泊り……それって相手側のご両親はどう思────
「康太、メッセきたよ」
「あ、うん……」
ロック画面からでも確認できるけど、今は既読をつけるためタップ。
────『今行くね! ダダッ∋^∀』
さて、自分で招いたことだけど……なんか変な流れになってきた。
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