クラスメイト復讐編
第一話 呪詛顕現
「痛みは、まだ残ってるのか?」
その問いに、加藤玲は首を横に振った。
紫色の空の下、彼は地べたに座っていた。
眼前には悪魔の女——リリス。
細く長い脚にタイトな黒のドレス、燃えるような紅い瞳を持つ異形の存在。
「身体はもう、この世界の“器”に適応したわ。あなたの魂があまりに濁っていたから……ふふ、受肉も容易だった。」
「お世辞はいい。力は、あるんだろ?」
リリスは笑みを深くした。
「ええ。あなたの“恨み”に見合う力を。」
彼女が指先をスッと玲の胸元に当てる。
その瞬間、玲の視界が反転した。
見知らぬ光景が脳内を埋め尽くす。
殴られた記憶、蹴られた記憶、笑われた記憶。
嘲り、怒号、沈黙、絶望——
そのすべてが、燃えるような熱となって体の奥で渦を巻いた。
「——こいつが、おれの力?」
「正確には、あなたの“痛み”が形になったものよ。名を、《呪詛顕現(ルイン・マニフェスト)》というわ。」
リリスが囁く。
「これは、呪いを“顕現”する能力。あなたが見たもの、受けたもの、殺された記憶。すべてが武器となる。
たとえば——あなたを踏みつけた彼女の“右足”を。あなたを嘲笑ったあいつの“喉”を。あなたを裏切った教師の“心臓”を。
それらを可視化し、破壊することができる」
玲は静かに笑った。
それは決して明るいものではない、冷たい鉄のような笑み。
「面白いじゃん……誰からいく?」
◇
その頃、ルクレティア王国。
神聖召喚の儀が始まろうとしていた。
「さあ……神の加護を受けし異世界の勇者たちよ!」
老いた神官が聖印を掲げ、魔法陣が光を放つ。
強烈な光の中から、10人ほどの少年少女が現れる。
「……マジで、来た」
「うおっ!マジで異世界だ!!」
「ねえ加藤いないんだけど、死んだんじゃない?」
笑い声が、世界に響く。
神殿の高みから彼らを見下ろすのは、薄笑いを浮かべる国王と、その取り巻きの貴族たち。
「勇者殿。さっそくで恐縮ですが、魔王討伐の旅に出ていただきます。」
「え、うちらって戦わなきゃいけないの……?」
「スキルがあるじゃないか。」
「たとえば君、何が出た?」
「【全属性魔法適性】。やっば、最強じゃんw」
「俺、【支配領域】。範囲攻撃ヤバそう!」
笑い合う“加害者”たち。
殺された少年の名を、もう思い出すことさえない。
だがその時、神殿の外で風が渦巻いた。
一瞬、全員の背筋を這うような悪寒が走る。
「……今、何か、いた……?」
誰かが呟いたその瞬間——
遠く、呪われし森の深奥にて、加藤玲は立ち上がった。
黒いフードを被り、リリスと共に、森の霧の中を歩き出す。
「見つけたよ、"勇者"たち。」
「どうするの?順番に殺す? 一人ずつ、じっくりと?」
「いや。まずは、“恐怖”から与える。
あいつらが、自分たちがしてきたことを思い出すように。
俺の顔を、名前を、そして……」
玲の目が紅く染まった。
「——死を、思い出すように。」
呪いが、森に満ちていく。
この世界はまだ知らない。
“復讐者”という災厄が、今まさに生まれ落ちたことを。
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