クラスメイト復讐編

第一話 呪詛顕現

「痛みは、まだ残ってるのか?」


その問いに、加藤玲は首を横に振った。


紫色の空の下、彼は地べたに座っていた。

眼前には悪魔の女——リリス。

細く長い脚にタイトな黒のドレス、燃えるような紅い瞳を持つ異形の存在。


「身体はもう、この世界の“器”に適応したわ。あなたの魂があまりに濁っていたから……ふふ、受肉も容易だった。」

「お世辞はいい。力は、あるんだろ?」


リリスは笑みを深くした。


「ええ。あなたの“恨み”に見合う力を。」


彼女が指先をスッと玲の胸元に当てる。

その瞬間、玲の視界が反転した。


見知らぬ光景が脳内を埋め尽くす。

殴られた記憶、蹴られた記憶、笑われた記憶。

嘲り、怒号、沈黙、絶望——

そのすべてが、燃えるような熱となって体の奥で渦を巻いた。


「——こいつが、おれの力?」


「正確には、あなたの“痛み”が形になったものよ。名を、《呪詛顕現(ルイン・マニフェスト)》というわ。」


リリスが囁く。


「これは、呪いを“顕現”する能力。あなたが見たもの、受けたもの、殺された記憶。すべてが武器となる。

たとえば——あなたを踏みつけた彼女の“右足”を。あなたを嘲笑ったあいつの“喉”を。あなたを裏切った教師の“心臓”を。

それらを可視化し、破壊することができる」


玲は静かに笑った。

それは決して明るいものではない、冷たい鉄のような笑み。


「面白いじゃん……誰からいく?」



その頃、ルクレティア王国。

神聖召喚の儀が始まろうとしていた。


「さあ……神の加護を受けし異世界の勇者たちよ!」

老いた神官が聖印を掲げ、魔法陣が光を放つ。

強烈な光の中から、10人ほどの少年少女が現れる。


「……マジで、来た」

「うおっ!マジで異世界だ!!」

「ねえ加藤いないんだけど、死んだんじゃない?」


笑い声が、世界に響く。

神殿の高みから彼らを見下ろすのは、薄笑いを浮かべる国王と、その取り巻きの貴族たち。


「勇者殿。さっそくで恐縮ですが、魔王討伐の旅に出ていただきます。」

「え、うちらって戦わなきゃいけないの……?」


「スキルがあるじゃないか。」

「たとえば君、何が出た?」


「【全属性魔法適性】。やっば、最強じゃんw」

「俺、【支配領域】。範囲攻撃ヤバそう!」


笑い合う“加害者”たち。

殺された少年の名を、もう思い出すことさえない。


だがその時、神殿の外で風が渦巻いた。

一瞬、全員の背筋を這うような悪寒が走る。


「……今、何か、いた……?」


誰かが呟いたその瞬間——

遠く、呪われし森の深奥にて、加藤玲は立ち上がった。


黒いフードを被り、リリスと共に、森の霧の中を歩き出す。


「見つけたよ、"勇者"たち。」


「どうするの?順番に殺す? 一人ずつ、じっくりと?」


「いや。まずは、“恐怖”から与える。

あいつらが、自分たちがしてきたことを思い出すように。

俺の顔を、名前を、そして……」


玲の目が紅く染まった。


「——死を、思い出すように。」


呪いが、森に満ちていく。

この世界はまだ知らない。

“復讐者”という災厄が、今まさに生まれ落ちたことを。


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