第24話 信頼と愛

 レオは何冊も本を開き、必死に勉強をしていた。少しでも早く姉の隣に立つ為、王女様の近くに控える者として相応しい教養を身に着けなければならない。


(エンブレイズとの違いは……、うーん、軍制はこんな感じかな?)

 

 ペンを走らせ、母国との相違点をメモ帳に纏めていると、部屋のドアが開く音が響いた。


(あっ!お姉ちゃんが戻って来た!)


 レオはすぐに立ち上がり、部屋の出入り口へと向かう。姉を見た瞬間、いつもと違い、彼女の目がわずかに潤んでいる事に気がついた。急いで姉の側へと駆け寄る。

 

「お姉ちゃん、おかえり!どうしたの?何かあった?」


 アリシアはレオの心配そうな顔を見て、少し胸が痛んだ。会議での失敗が更に心を重くする。レオはきっと早く自分と働きたいと思ってるのに、試験の事を伝えるのが申し訳ない。けど言わない訳にはいかない。

 

「ただいま。その……、ごめんね。お姉ちゃんはレオの入団を無試験で進めたかったんだ。けど、皆の説得が出来なくて、レオが入団する為の試験をすることになっちゃった。王女推薦で簡単にしたかったけど……」


 彼女の声は小さく、申し訳なさそうに顔を伏せる。それでレオは姉の目が潤んでいる原因を理解した。自分の為に楽な道を用意したかったんだろう。そもそもレオは無試験、無審査で王女様の騎士団に入れるとは思ってなかったし、姉が悲しむ必要は無いというのに……


「え!お姉ちゃん大丈夫だよ!王女様の騎士団に入るんだから、試験があるのは当たり前だよ!ちゃんと合格してみせるから!お姉ちゃん気にしないで!」

「でも、お姉ちゃんはレオに負担をかけたくなくて……、試験なんて急に言われても困るでしょ?」

「俺なら楽勝だよ、お姉ちゃん!」

 

 レオは明るく笑おうとするが、それでも彼女はまだ申し訳なさそうな顔をしている。姉が自分を思って悲しんでいる姿を放っておけない。


(お姉ちゃん……、俺の為に無理をしようとして……)


 姉はいつも自分を最優先してくれる。それはいつもの事だ。だが、それは決して当たり前ではない。だから感謝しないといけない。自分も姉の為に出来る事をしないといけない。

 

(お姉ちゃん……、早く笑顔になってほしい……、そうだ!)

 

 レオは勢いよく彼女を抱きつき、ぎゅっと腕を回す。辛い時、姉はいつも抱きしめてくれる。だから今度は姉が辛くないように自分が抱きしめてあげる番だ。


「お姉ちゃん、俺の為に会議で頑張ってくれてありがとう!俺はお姉ちゃんの為に強くなったんだから、試験なんて問題なく合格できるよ!信じて!」


 アリシアはレオの温もりに包まれ、涙が零れそうになった。彼の存在がどれほど自分の中で大きくなっているか、改めて実感をする。彼女も腕に力を込め、ゆっくりと彼を抱きしめ返した。そうするとレオも嬉しそうに体を預けてくる。


「レオ……ありがとう。そうだね……、レオならきっと合格出来るよ。お姉ちゃんも信じてるから」

「うん!お姉ちゃん、楽しみにしていて!お姉ちゃんがびっくりするような合格をしてみせるから!」


 自信たっぷりなレオの様子にアリシアは思わず微笑んでしまう。ただ、まだ伝える事がある。


「ふふ、頼もしいね。でも、お姉ちゃんはこれから王宮に行かないといけないの。1人で大丈夫?」


 レオは胸を張り力強く頷く。少しだけ心細いが、姉に心配をかけたくない。


「うん!大丈夫だよお姉ちゃん!だからお姉ちゃんも影武者の仕事頑張って!」


 その彼の強がりに胸が熱くなり、アリシアは抱き締める力を強める。彼への感謝と、自らの拙い愛情を精一杯込めて……

 

「付き添えなくてごめんね。お姉ちゃんもレオの合格を信じてるよ」

「お姉ちゃん、ありがと!」


 2人は少しの時間、抱き合っていたが、ドアに控えめなノックが響くと、慌てて抱擁を解く。アリシアがそっとドアを開けると侍女が入ってきた。


「殿下、入団試験の準備が整いました。レオ殿をお連れします」

「あぁ、頼む」


 レオは侍女に連れられ、試験室に向かっていった。アリシアは表面上は落ち着いていたが、内心ではそわそわしながら、試験室の方を見ている。


(レオ、頑張って……)


 本当は彼の側で助けたい。離宮で彼を一人ぼっちにしたくない。ただ自分が王女である以上、ずっとそばに居ることはどうしても叶わない。考え込むと心配は尽きないが……


(私も……、レオを信じてるから……)


 彼が自分を慕い、信じてくれるように、彼女も彼を信じることにした。

 王宮に向かう刻限が近づき、アリシアは急いで身支度を整え馬車へ駆け込む。そこで、ふと気が付く、


(不思議だな……。私がこんな気持ちで王宮に向かうとは……)


 アリシアにとって王宮は近寄りたくない場所、自分を蔑む本当の家族には会いたくない。だから王宮に行く日はいつも憂鬱な気分だ。


(レオが居てくれるからか……)


 今回アリシアが落ち込んでいたのは、会議の事だけではない。今日のように王宮に向かう日はいつも気鬱だった。ただレオのお陰で、最近はそんな事を考えていることは少なくなっている。

 

(レオに甘えられるだけじゃない……、私もレオに甘えて良いんだ……)


 辛いことが有り、心が弱りそうになっても、レオが居てくれれば耐えられる。アリシアはそんな気がした。

 

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