第七話「光と風と、祭りの余韻」
広場は色とりどりの旗で彩られ、屋台からは湯気と香ばしい匂いが立ちのぼっていた。
子どもたちは笑い声を上げて駆け回り、大人たちは手にした菓子や酒を掲げて微笑む。祭りの喧噪と温もりが、街全体を柔らかく包み込んでいた。
舞台の上では、リリアナが軽やかに舞っている。仮面の奥の瞳はきらりと輝き、舞の一振りごとに光と影を絡ませ、観客の心を引き寄せた。
その横でアルヴァが竪琴を爪弾く。澄んだ旋律は風に溶け、広場を流れ、自然と人々の拍手と笑いを呼び起こしている。
セイラは少し離れた場所に占いの机を設け、訪れる人々の手を静かに受け取っている。淡いブルーのローブ、肩にかかる星座の刺繍。彼女の声は祭りの熱気の中でも道標のように澄み、耳に残った。
祭りの盛り上がりの中、広場の隅に立つギルドマスターが冒険者たちへ視線を向けた。深く息をつき、口元に穏やかな笑みを刻んで言った。
「今回の森の異変を調べ、そして無事に戻って来たこと……心から感謝する」
若い魔法使いたちは少し照れくさそうにしながらも、胸を張って礼を返す。
彼らの瞳には、森での焦燥と葛藤がまだ影を残しながらも、やわらかな笑みへと変わっていく色があった。
舞台袖からリリアナが小さく一礼し、アルヴァは肩をすくめる。セイラはヴェールの奥で静かに瞳を細め、微笑んだ。
「君たちが示してくれたのは、力押しの魔法ではなく――心を重ね、耳を澄ますことの大切さだ。若い冒険者たちも、それを学んだはずだ」
ギルドマスターの言葉に、魔法使いたちは互いに視線を交わした。
森で知ったのは、力強い炎も、まばゆい光も、単独では届かないという現実。けれど、三者三様の術が重なれば、幻すら破り、道を拓けること。
――派手さではなく、目に見えぬものに耳を澄まし、心を合わせること。
その学びは、今、祭りの光の中で確かな温もりとして胸に宿っていた。
やがて夜を迎えると、子どもたちの声は遠くに消え、秋風が落ち葉を舞わせる。屋台の灯りは星のように瞬き、遠くの森も静かに街を見守っていた。
セイラはゆっくりと息を吐き、アルヴァは弓を背に休める。舞台から降りたリリアナは、仮面を影に揺らしながら人々の間を歩く。
「森も……少しは落ち着いたかしら」
セイラの呟きに、アルヴァは口元に笑みを浮かべ、肩をすくめた。
三人の足もとで、森は静かに息を整え、わずかに光を返した。それは、彼らの尽力を受け入れ、安らぎを取り戻した証のようだった。
祭りの灯りと笑い声の中で、セイラたちはそれぞれの胸に、次の旅路への気配をうっすらと感じ取っていた。
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