第33話 破天荒少女のもたらす証拠

 叫び声を聞いてすぐに廊下に出ると、そこには一触即発というような空気を纏う莉愛と穂乃果が何かを言い合っていた。

 いや、言い合っていたというよりは穂乃果が一方的にまくしたててるといった感じだ。


「一体何があったんだ?」


「……莉愛何があったんだ?」


 現場に駆け付けた俺と陽太はとりあえず、まだ話が出来そうな莉愛に話を聞くことにする。

 穂乃果はかなり激昂している様子でまともに話はできそうにない。

 本当に何があったんだか。


「私は藍原さんに話をしようと思ってただけなんだけど、妙に敵対視されてるみたいでさ。場所を移そうって提案したらめちゃくちゃ怒っちゃって私も困ってたところ」


 少し呆れたように、めんどくさそうに莉愛はそういった。

 表情から莉愛が嘘を言っているような感じはしないし、何よりもここで莉愛が嘘をつくメリットがない。

 何が穂乃果をあそこまで怒らせたのかは全くわからないけど、いったん話を聞いてみるしかないよな。

 そう言えば、昔から穂乃果は自分の思い通りにならないことがあると癇癪を起す悪癖があったな。

 好きだった頃はそんなところも可愛いと思っていたけど……

 どうやら、俺の目は節穴だったらしい。


「……なるほど。うちの幼馴染が迷惑をかけてすまないな」


「全然、瑠衣君が謝るようなことじゃないよ。でも、この状況どうしようか」


 周りにはすでに野次馬が大量に集まってきていて、どう見ても収集が付きそうにはなかった。


「そうだなぁ。とりあえず場所を変えたらどうだ? 莉愛は穂乃果と何か話したかったんだろ? 俺でよければ同席するし、何か問題があれば聞くからさ」


 この場で何かを話し合うよりかは数百倍マシだろうし、何よりもここまで激高した穂乃果を放っておくといいことが置きそうには思えない。

 であれば、ある程度人目のつかない場所で落ち着いて会話をするほうが得策と言えるのではないだろうか。


「一応、俺もついていくぜ。莉愛が何かやらかさないか心配で仕方ないからな」


「私もついて行っていいかな?」


「俺は構わない。莉愛と穂乃果もいいか?」


 一応二人に確認しておく。 

 二人は何も言葉を発することはなかったけど、コクリとうなずいた。

 こうして俺たちは野次馬が大量にいる廊下を後にして人気のいない場所に向かった。


 ◇


「で、いったい何があったんだ?」


 屋上に移動した俺たちは話を聞くことにする。

 あんな目立つところでなんでそんな話をしていたのかも気になるし、どうして穂乃果と莉愛が言い合いをしていたのかも聞かないといけない。


「私から言わせてもらうと、話をするために藍原さんに話しかけて場所を変えようって提案したらなぜか怒られたんだよね~」


 へらへらしながら莉愛はそういうけど、こういう時にこいつが嘘をつかないのは知っているため信じることにする。

 問題は穂乃果のほうだ。

 先日の愛夏との件もある。


「穂乃果の方は何か言い分はあるのか? 今の所完全にお前が悪い感じだけど」


「違う! そこの転校生が私に喧嘩を売ってきたの! 私は悪くない」


 半狂乱でまくしたてるが、この状態の人間が言っていることが正しいと思えるほど俺はお気楽じゃない。

 最近本当に穂乃果の様子がおかしい。

 いや、最近おかしいのか前からおかしかったけどそのことに気が付いていなかったのか。

 どちらかはわからない。


「はぁ。おい瑠衣。これほんとに大丈夫なのかよ」


「どうだろうな。ちなみに、莉愛は穂乃果と何が話したかったんだ? もともとそれを聞きたかったんだろ?」


「ああ、その話ね。それってこの場で話しても大丈夫なのかなぁ」


「それは俺に聞かれてもなぁ。そこまで不味い話なのか?」


 莉愛は俺と愛夏を交互に見ながら気まずそうにそう言った。

 俺と愛夏に関する話なのか?

 だとしたら、一体どんな話だというのか。


「不味くはないかもしれないけど、それなりに不快な話になるだろうけど。それでもいいなら話すよ。どのみち藍原さんには話すつもりだったからね」


「俺は大丈夫だ。愛夏は大丈夫か?」


「うん。私は大丈夫だよ。どんな話を聞かされても瑠衣君と一緒だからね」


 俺に向かってニコッと愛夏は微笑みかけてくれる。

 それだけで胸が温かくなって幸せな気分で満たされる。

 そんな俺たちを穂乃果が恨めしそうに睨んでいるような気がする。


「そっか。じゃあ、話させてもらうけどさ。最近流れてる愛夏ちゃんの噂を流してるのって藍原さんだよね?」


 スンっと真顔になった莉愛は穂乃果の方を向きながら落ち着いた声音で告げた。

 その内容は驚くべきものというよりはある程度予想の範囲内のものだった。

 しかし、証拠が何もないから詰め寄ることはできなかっただけで。


「な、何の話よ! 噂なんて私は知らないし、そんなことをして私になんのメリットがあるって言うの!」


 素人目でも穂乃果が動揺していることが分かる。

 やはり、穂乃果は変わってしまったのか。

 それともずっと前からこんな感じだったのか。

 今となってはわからない。


「メリットならあるじゃんか。愛夏ちゃんの悪い噂が広まって瑠衣君と愛夏ちゃんの仲が悪くなったら藍原さんにとっては嬉しい事でしょう?」


「でも、そんなことをした証拠なんて……」


 穂乃果がそう視聴したのと同時に莉愛はポケットからスマホを取り出して何らかの操作を始める。

 次の瞬間には穂乃果と複数の男女の声が流れ始めた。


『一ノ瀬愛夏の悪い噂を流してほしい? そりゃなんで』


『私の幼馴染を洗脳して奪った泥棒猫を地獄に叩き落としたいからよ。それに、噂が広まって傷心中の泥棒猫に声をかけたら恋人になれるかもしれないわよ?』


『そりゃあいいな! 協力しよう』


 この会話と同じような内容の話が複数スマホから流れている。

 証拠としては十分すぎる物だった。


「おい、マジかよ」


 陽太が引いたように低く短い声をこぼす。

 俺としても同じような感想だが、それ以上に怒りに近い感情が湧いているのが自分でもわかる。


「とまぁこれが証拠ね。偽造音声とかでもないし、私にそんな技術は持ってないしね」


 ぺろっと舌を出して莉愛はイタズラっぽく言う。

 疑う余地もなくこれは本物の音声データだ。


「私の悪い噂なんて流れてたんだ……知らなかった」


「どういうことか、説明してもらおうか。穂乃果」


 俺は静かに穂乃果に詰め寄るのだった。

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