第31話 恋に理屈なんていらない
水族館内にあるレストランを訪れた俺たちはそれぞれ注文をして向き合って座っていた。
正直、結構緊張している。
自分で聞いておきながら、今更になって聞くべきではなかったかもしれないと思ってしまう。
全く、俺も臆病だ。
「ふふっ、瑠衣君珍しく緊張してるね。なんだか、新しい一面かも」
「俺だって緊張くらいするさ。それも、なんで愛夏が俺のことを好きになってくれたかなんて話題なんだからなおさらにね」
「私もこうやって面と向かって瑠衣君を好きになった理由を話すのなんて緊張するし恥ずかしいんだよ?」
顔を赤らめながらそういう愛夏は嘘を言っているようには見えなかった。
そんな様子の愛夏に俺も更に鼓動が激しくなるのを感じる。
「そうだよな。ごめん」
「全然謝ることじゃないよ? それにいつかは話そうと思ってた事だし」
愛夏は意を決したように背筋を伸ばして口を開く。
「えっと、まず私と瑠衣君が初めて会った時の事って覚えてる?」
「確か……二年生に上がったときに話しかけてもらったんだったか?」
正直な話、愛夏のことを正確に認識し始めたのは高校二年の中盤位だ。
何度も話しかけてきてくれて、少しずつ仲良くなっていたような気がする。
それまでに関りがあったかと言われると記憶にない。
「やっぱり、瑠衣君は覚えてないんだね。まあ、そんな予感はしてたけどさ」
少しだけ拗ねた様子で愛夏はそっぽを向く。
この反応的に俺は愛夏とそれよりも前に会った、もしくは会話を交わしたという事なのだろうけど本当に覚えていない。
なんだか、とんでもない罪悪感を覚える。
「ごめん」
「いやいや、謝ってもらうようなことじゃないよ! それにいつかは話さないといけないことだっていうのは自分でも思ってたから」
「一体、俺たちはいつ会ってたんだ? 本当に記憶が無くて……」
二年生に上がる前に俺と愛夏があっていた?
いや、どれだけ思い出しても愛夏みたいな可愛い女の子と話した記憶がない。
もしかしたら話していたのかもしれないけど、当時は穂乃果の事しか見て無かったからその弊害か。
「私たちが会ったのは一年生の時だよ。私が男の子に告白されてそれを断ったときに強引に迫られてた時に瑠衣君が助けてくれたの。覚えてない?」
「愛夏が強引に迫られてた? その現場に俺がいたって?」
「うん。どこからともなく表れて私を助けてすぐにどこかに行っちゃったの。それ以降瑠衣君のことを目で追ってたんだ」
愛夏を過去に助けていた?
そんな記憶本当にないぞ。
高校一年の時に愛夏に会っていて、それで愛夏が俺のことを好きになってくれていたのか。
「なるほど」
「別に助けてくれたからってわけじゃないよ? 私が瑠衣君のことを好きになったのは」
「違うのか? 俺はてっきり」
「まあ、要因の一つであることは否定しないけどね。瑠衣君に助けられてから私はずっと瑠衣君を目で追ってたの。それで、見てたら瑠衣君はいろんな人に優しくて。いつも誰かに気を使っていて。そんな姿にだんだん惹かれて行って、気が付けば好きになってた」
恥かしそうに眼を伏せながら愛夏は俺を好きになってくれた理由を教えてくれた。
自分が知りたかったことをしれて嬉しい反面、愛夏を助けたことを覚えていないことがなんだか気持ち悪かった。
「……」
「でも、私が瑠衣君を好きになったとき瑠衣君は穂乃果ちゃんのことが好きだったでしょ? だから、アプローチしてなかったんだけど。今年の冬に振られたって聞いて今しかないって思ったの。それでアプローチを始めたわけ」
思えば、確かに愛夏がアプローチを始めたのは俺が穂乃果に振られてからだった。
当時はいきなり愛夏にアプローチされて戸惑ったのを覚えている。
「それが、俺を好きになった理由?」
「うん。助けられて瑠衣君を意識するようになって。今まで告白してきた男の人とは違うって思って。もっと瑠衣君のことを見てたら好きになってたの。理由なんてはっきりしたものじゃないけどね」
好きになるのに理由は必要ないとは言うけど、こうやって理由を聞くとなんだか嬉しく思うし、本当に俺のことが好きなんだと実感する。
そして、俺も愛夏が好きなんだと再認識する。
俺は愛夏のどこを好きになっていたのか。
気が付いたら好きになっていた。
どこを?
優しいところ?
可愛いところ?
真っすぐなところ?
料理が上手いところ?
笑顔が素敵なところ?
きっと、全部だ。
「俺が言うのも変だけどさ。理由なんてはっきりしてないのかもね。俺も今愛夏のどこを好きになったかって考えたんだけど。理由って言われるとしっくりこない気がする。俺は愛夏の全部が好きだ。こういうのって理屈じゃないのかもしれない」
「そうだよ! 恋は理屈で語る物じゃないよね。私もいろんなところ全部ひっくるめて瑠衣君のことが好きだよ!」
周りに聞かれたら恥ずか死にそうな会話を繰り広げていると、さっき注文した料理が運ばれてきた。
「じゃあ、食べよっか」
「だな。冷めないうちに食べることにしよう」
こうして二人で食べる昼食はなんだか、甘酸っぱい味がするような気がした。
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