第29話 星宮瑠衣の回想

 あれから何日か学校に行って気が付けば土曜日がやってきていた。

 今日は何を隠そう愛夏と水族館に行く約束をした日である。

 今日の予定は九時に駅前集合でそこから水族館に移動することになっているため、俺は早めに起きて支度を済ませて八時半には集合場所についていた。


「早くつき過ぎたかな? でも、遅刻するとか論外だし。こうやって待ってる時間も楽しいから良しとするかな」


 適当にそこら辺を歩いて愛夏がいないことを確認してからスマホを見る。

 とくに連絡などは入っていなかったから体調不良とかでキャンセルとかはなさそうだ。


「にしても、水族館か。行くのって何年ぶりなんだろうな」


 幼少期に数回だけ行ったことはある気がするけど、昔のこと過ぎて何をしてたかとか、どんなものがあったかなどは覚えていない。

 覚えていることがあるとすれば、イルカショーが行われていたことくらいだろうか。

 まあ、肝心の内容は全く覚えてないんだけど。


「そういえば、水族館とかは家族以外とは行ったことなかったな」


 思い返してみれば、穂乃果とあんなに長い時間一緒に居たのにそう言う遊びスポットには全く言ったことが無いような気がする。

 動物園や遊園地などのメジャーな場所はおろかカラオケに行ったことが無いな。

 穂乃果といった場所と言えば、あいつの家か俺の家。

 そうじゃないときはショッピングモールとかであいつの買い物に付き合わされていたくらいか。


「こう思い返してみると、俺は都合よく利用されていただけかもしれないな」


 恋は盲目とはよく言ったものだ。

 今はあいつのことを好きじゃないからわかる。

 あれは全て都合よく利用されていただけなんだって。

 でも、好きだった時はそんなことを考えることなく盲目的にあいつの言うことに従っていた。

 なるほど。

 あの時の俺はそもそも恋愛の土俵にすら上がっていなかったというわけか。


「そう考えると少し悲しくなってくるな」


 でも、この経験があったから俺は今愛夏と付き合えているわけで。

 そう考えればいい経験だったのかもしれないな。


「おか~さん。なんであのお兄ちゃん一人でぶつぶつ言ってるの?」


「こらっ。見ちゃいけません」


 独り言をつぶやいていると小さい女の子に指をさされながらそんなことを言われてしまった。

 確かに、独り言をつぶやいていたけどまさか不審者扱いされるとは微塵も思っていなかった。


「これからは独り言はあんまり言わないようにしよう」


 これも独り言なわけだけど、それは気にしないようにしよう。

 いや、気にしたほうがいいのかも知れない。


「瑠衣君! 待たせちゃったかな?」


 一人で変な事を考えていると、後ろから最愛の彼女の声が聞こえてくるのであった。

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