第25話 破天荒少女

 誰が何のためにあんな噂を流しているのか。

 どれだけ考えてもわからなかった。

 動機もわからないし、誰がやったのかも全くわからない。

 そもそも、明確な動機が存在しているかすらもわからない。

 人間なんて衝動的に犯罪を起こしてしまう存在なのだから。


「にしても、愛夏にあんな噂を流すなんて何が目的だ? 得なんかないだろうに」


 まだ、俺の悪評を流すのなら理由はわかる。

 俺と愛夏を別れさせたいという理由なのだろうと簡単に想像がつくんだけど、愛夏を陥れる理由は全く持ってわからない。

 だって、愛夏が俺と付き合ってるんだから他の女子たちは安心のはずだ。


「俺が目的? ……そんなわけないか。俺ってそんなに周囲の人間に好かれるような人間じゃないしな」


 浮かんだ考えをすぐにかき消す。

 そもそもとして、俺の交友関係的にありえないだろう。

 こうなってくるといよいよわからないな。

 気分は悪いけど犯人が尻尾を出すまで待つしかないか。

 陽太の話的にまだ実害は出てないらしいし。

 本人が知ってるかどうかはわからないけど、しっかりフォローしとかないとな。


「あれ? もしかして瑠衣君?」


「ん?」


 考え事をしていると前から声をかけられる。

 少し高い声で女子の声であることはすぐにわかったんだけど、俺に声をかけてくるような女性の知り合いなんていただろうか?

 そう思って前を向くと顔見知りが立っていた。


「やっぱり瑠衣君だ。元気してた?」


「まあまあ元気にしてたぜ。お前は……元気そうだな」


 目の前には綺麗な黒髪をショートカットにした同い年の女子。

 陽太の彼女で何度か会ったことがある神楽坂かぐらざか 莉愛りあが立っていた。

 明るい性格で常にポジティブ思考、陽太とは中学からの付き合いらしい。

 スポーティーな女の子だ。


「ま~ね。そういう瑠衣君は何でそんなに真剣に下を向いてたの? 下にダンゴムシでもいた?」


「なんでダンゴムシを凝視しないといけないんだ。お前のはボケなのか天然なのかわかんねえんだよ」


「流石にこれはボケだね。で、冗談は置いといて何かあったの? 珍しく悩んでるみたいじゃんか」


 莉愛は笑いながら俺の背中をバシバシ叩いてくる。

 初めて会った時から距離感が近くて、多分だけど莉愛は数多くの男子を勘違いさせてきたに違いないと俺は勝手に考えている。


「最近俺に彼女ができたのは聞いてるか?」


「うん! ついに瑠衣君にも彼女ができたんだって驚いてたからね。何? その彼女さん関係で問題でも起きたの?」


「そんなところだな。彼女の悪評が広まってるんだけど、出所がわかんないし何が目的かもわかってないからどうしようかなって悩んでたんだよ」


「へぇ~陽くんの話だと学校でも人気者の彼女さんなんでしょ? なんで悪評とか流れてるの?」


 莉愛の言う通り、愛夏は学校では人気者だし大半の生徒は彼女に悪感情を抱いてはいないはずだ。

 少数からは嫉妬や反感を買っているかもしれないけど、それにしても変な噂を流すほどかと言われればそこまでではないだろう。


「それがわからないから悩んでるんだよ」


「へぇ~それは確かに気分悪いね。でも、噂って誰が流したのかなんて簡単にわかんないんだから気にしても仕方ないんじゃない? 気分は悪いだろうけどさ」


「だよな。だから、とりあえずは気にしないでおこうと思ってたところだ」


「うん。それでいいと思うよ。だって、変にそこで気を張っても何もできないだろうしね。まあ、困ったら声かけてよ。陽くんともども力になるからさ」


 ポンっと胸を叩いて莉愛は告げる。

 陽太と同じでいい奴ではあるんだけど、こいつはもう少し異性との距離感に気を使ったほうがいいと思う。

 たまに陽太が莉愛が他の男に盗られないかとヒヤヒヤしているのを見かけるからな。


「ありがとな。そういえば、今更だけどなんでお前がここにいるんだ? 家はここらへんじゃないだろ?」


「あ~言ってなかったっけ? 私、転校するんだよ」


「それは初耳だな。一体どこの高校に転校するんだ?」


 莉愛は確か隣の県の共学の高校に通っていたはずだ。

 成績は普通くらいだったか。

 少なくとも陽太よりは上だった気がする。


「そんなの決まってるじゃん! 瑠衣君と陽くんと同じ高校だよ! 少しでも陽くんと一緒に居たくて転校することにしたんだ!」


「は?」


 いつも変なことを言う奴だとは思ってたけど、ここまで変なことを言っているのは初めてのため驚きを隠せない。

 本気で言っているのだろうか?

 というか、陽太と同じ学校に通いたいという理由だけで転校をしていたとするなら本当にやばい奴だぞ?


「本当だって。てか、そんなヤバい奴を見るような目で見ないでよ!」


「いや、だって。親御さんはなんて言ってたんだ?」


「莉愛がしたいならそうしなさいって。認めてくれたよ?」


 ……そうだった。莉愛の両親は親バカだった。

 普通の家庭であればそんな理由での転校を認めてはくれないだろうけど、莉愛の両親なら許可を出しかねない。


「……そうか」


「というわけで、今度からそっちの学校に通うことになるからよろしくね~」


 莉愛はそう言うと手をブンブン振って走り去っていった。

 全く、することも彼氏に似ているとは。

 お似合いなバカップルだな。


「はぁ。ただでさえ、愛夏の件で頭を悩ませてるって言うのに更に悩みの種が増えちまったじゃねえか」


 ため息をつきながら俺は今度こそ家に帰るのだった。


 



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