第2話 金髪美少女と気分転換

「おっす~そんな死んだ顔してどうしたんだよ瑠衣」


 始業式に向かうために重い体を引きずって登校していると、後ろからいきなり肩を組まれた。

 こんなことをする奴は一人しかいない。


「朝からお前は元気だな。陽太ようた


 空風そらかぜ 陽太ようた。高校二年の頃から同じクラスになったクラスメイトで髪を金髪に染めていて少しチャラチャラした印象を受ける男だ。

 いっつもニヤニヤしていて、少し気持ち悪いけど根は良い奴だから恨めない。

 運動神経抜群で身長も180cmと少し高めなこともあってよく女子生徒に告白されているのを見かける。


「まあな! それよりあけましておめでと! 今年もよろしくな」


「ああ。あけましておめでとう。今年もよろしく頼む」


 肩を組まれながら新年のあいさつをする。

 こいつとはそろそろ友達付き合いが一年になるけど、連絡先を交換してなかったな。


「で? なんでそんなに死んだ顔してんだよ。冬休み中に何か嫌なことでもあったのか?」


「……そんなに顔に出てたか?」


「いや、そこまでわかりやすいってことは無いけどよ。俺はお前と結構長い時間一緒にいるからわかるってだけかも知んねぇけどさ。なんかあったなら話くらい聞くぜ?」


 本当にこいつは良い奴だよな。

 こういう友達がいて俺は結構恵まれてる。


「実はさ、クリスマスに穂乃果に告白して振られたんだよ。で、ショックすぎて冬休み中の記憶とかほとんどない」


「あ~なるほどな。お前らあんなに仲良かったのに振られちまったのか。言いたくなきゃ言わなくていいけどよ、なんて振られたんだ?」


 思い出すだけでも、心が軋むけど一人で抱え込むよりは陽太に話して笑い話にでもしたほうが幾分か心が楽になる気がするから話すことにした。


「友達としては好きだけど、付き合えないって言われたよ。結構脈ありだと思ってたんだけどな……」


「まあ、元気出せよ。でも、友達として好きって言われたならまだ脈はあるんじゃないか? まだチャンスがある気がするんだが……」


「それがな、振られた翌日に遊びに誘われたよ」


「行ったのか?」


 少し引き気味で陽太は俺のことを見てくる。

 ……そんな目で見ないでくれ。

 ああするしかなかったんだ。


「行ったよ。断ろうとしたけど、強引に連れて行かれた。で、遊んでみて思ったけど全く男として意識されてなかった。結構ショックだった」


「……そりゃあ、ショックだろうな。俺なら泣いちまうぜ」


「家でちょっと泣いた」


「泣いたんかい!」


 鋭い突っ込みが襲ってきた。

 いや、まあ泣くでしょ。

 泣かなきゃ、やってらんない。


「だから、今日はちょっとテンションが低いんだよ。本当は学校とか来たくなかったし」


「そうなるわな。なんか、ドンマイ」


「やめてくれ。なんか、同情されるとまた泣きたくなってくる」


 二週間近く経っても、失恋の傷は全然癒えることは無かった。

 それどころか、時間が経つにつれて傷が広がっていくような錯覚を覚える。

 でも、陽太と話して少しだけ気分が楽になったから心の中で感謝を伝えておいた。

 本人には恥かしくて言ってない。


 ◇


「おはよ~ってなんでそんなに目が死んでるの!? 瑠衣君」


「愛夏もか。そんなに俺の目って死んでるのか?」


 教室に着くなりそう話しかけてきたのは、一ノいちのせ 愛夏あいかだ。

 鮮やかで美しい金髪をポニーテールにしていて、いつも笑顔を絶やさない美少女だ。

 空色の釣り目は凛々しく見えてとても綺麗だと思う。

 普段から明るくて、性格も良く太陽のような存在だ。


「まあ、結構死んでるよ? 冬休みに何か嫌なことでもあったの? 私でよければ全然話聞くよ!」


「ありがと。まあ、クリスマスに穂乃果に振られたってだけだ」


 あっさりとあまり気にしていないように言ってしまったのは男としてのプライドからだろうか。

 今更、こんなちっぽけなプライドを守っても何の意味もないというのに。


「あちゃ~そういう事か。悪い事聞いちゃったね」


「いや、気にしなくていい。俺も気にしないようにしないといけないからな」


「そか、ごめんね。傷を抉るようなこと聞いちゃって」


 申し訳なさそうに愛夏は頭を下げる。

 こういう素直なところは愛夏の良いところだと思う。


「本当に気にしないでくれ。俺もできるだけ早く忘れるようにしたいからさ」


 いつまでも引きずっていたって何にも良いことが無い。

 であるならば、早めに忘れて割り切って前を向くべきだろう。


「わかった! お詫びといってはなんだけど、今日の放課後一緒に遊びに行かない?」


「俺は別にいいぞ。遊びでもして気を紛らわしたいしな」


 ジッとしていると振られたことを思い出して嫌になる。

 愛夏がせっかく誘ってくれてるわけだし、お言葉に甘えて遊ぶことにしよう。


「じゃあ、放課後ね! ふふっ楽しみだな」


「そんなに喜ぶことか?」


「うん! だって瑠衣君いっつも穂乃果ちゃんと一緒だったから声をかけにくかったんだよ」


「そうか? すまん」


「別に謝ってもらうほどの事じゃないけどね」


 愛夏はとても上機嫌に話していた。

 ここまで上機嫌な愛夏は初めて見たかもしれない。

 冬休み中に何かいいことでもあったのだろうか?


「じゃあ、私にもチャンスあるよね?」


「何か言ったか?」


 上機嫌な愛夏が何かを小声でつぶやいたが声が小さくてなんて言っているのかわからなかった。

 まあ、愛夏のことだから悪口とかじゃないんだろうけどさ。


「ううん。何でもないよ。じゃあ、放課後楽しみにしてるね」


「ああ。俺も楽しみにしておく」


 何気に愛夏と二人で遊びに行くのは初めてだったりするから、結構楽しみだ。

 愛夏は普段何をして遊ぶのだろうか?

 そこらへんも教えてもらいたいものだ。


「そういや、まともに誰かと遊ぶなんて初めてかもしれない」


 大体は穂乃果と一緒だったし、穂乃果がいなかったら遊びに行っていなかった気がするので、かなり楽しみである。

 さっきまで、気が重くて仕方なかったのに愛夏のおかげで放課後が楽しみになったな。


 ◇


「そんじゃあ、明日から通常授業だからめんどくさがらずにちゃんと来いよ~」


 担任はそう告げて教室を後にした。

 今日は始業式ということもあって、授業などは無く校長の話や明日から始まる授業についてなどの話だけだったから比較的楽だった。


「瑠衣君! 遊び行こ!」


 担任が教室を出てすぐに愛夏はニコニコとしながらハイテンションで話しかけに来た。

 そんな様子の愛夏を周りの男子生徒が羨ましそうに見てきていた。

 流石は愛夏。

 学校でも人気がある彼女が男と一緒にいるだけで視線を集めてしまうんだな。


「行こうか。といっても、俺はあんまり遊びに行ったことが無いから情けない話だけど、エスコートお願いしてもいいか?」


「あれ? 穂乃果ちゃんといっつも一緒に遊んでたんじゃないの?」


「いや、まあそうなんだけどさ。大体あいつの買い物に付き合ったりとかだから何かして遊んだ経験とかあんまりないんだよ。休日に水族館とか遊園地に行ったことはあるんだけどな」


 学校の帰りとなるとそういったところに行くのはあまりいい選択とは言えないような気がする。

 今日は昼で学校が終わりだから、今から昼ご飯を食べに行くのもいいのかもしれない。


「そうなんだ。瑠衣君はもっと穂乃果ちゃんといろんなところに遊びに行ってたんだと思ってたよ」


「そういうわけでもないぞ? 案外そこまで遊びに行ったことは無いからな」


「じゃあ、私が色んな所に連れてってあげるから楽しみにしててよね!」


 ウインクをしながらそういう愛夏はとても可愛くて、それを見ていたクラスの男子生徒は胸を押さえて倒れてしまった。

 俺も失恋した直後じゃなければ危なかったかもしれない。

 それほどまでの可愛さだった。


 ◇


「瑠衣君は体を動かすのは好き?」


「う~ん、別に好きでも嫌いでもないな」


「そういう中途半端な答えが一番困るんだけど……む~」


 ジト目でそんなことを言われては、申し訳なくなってしまう。

 しっかりちゃんとした答えを出さないといけないな。


「強いて言うなら、体を動かすのは好きだな」


「瑠衣君運動神経いもんね。私にもちょっと分けて欲しいよ」


「そこまでよくないと思うけどな」


 体育の成績も特段良いわけでもないし、運動部の奴と比べて特段抜きんでているわけではない。

 だから、個人的にはそこまで誇れるものではないと思う。


「いや、全然そんなことないからね!? 瑠衣君めちゃくちゃ運動神経いいし」


「ま、褒められて嫌な気はしないんだけどな」


 こうして素直に褒められるのは嫌いじゃない。

 愛夏は明るいから一緒にいるこっちまで明るくなる。

 本当に愛夏はすごい人だと思う。


「じゃあ、ボウリングとかどう? 体を適度に動かせるし、ストライクとか取ると結構スッキリするんじゃないかな?」


「ボウリングか。やったことないけどうまくできるかな」


「やったことないの!?」


「そんな驚かなくてもいいだろ? 今まで経験する機会が無かったんだから」


 今までボウリングは誰ともしたことが無い。

 両親とかは幼少期から仕事で忙しくて、そういう所に連れて行ってもらった覚えがない。

 穂乃果もどちらかと言うとインドアだったので本当にやったことが無いんだけど、この反応を見るにこの年で誰もが一度くらいはやっている物なんだろうな。


「じゃあ、今日が初めてだね! 私が瑠衣君に勝つチャンスじゃん! 燃えてきたよ!」


「初心者を虐めるなよな。まあ、負けるつもりはないが」


 相手が女子だからって手を抜くわけにはいかない。

 時代錯誤な考え方かもしれないけど、体を動かす競技において男子が女子に負けるというのはなかなかに精神的に来るものがある。

 だから、男の沽券にかけて負けるわけにはいかなかった。


「ふっふっふ。その威勢がいつまで続くのか楽しみだよ」


 愛夏は不敵に笑いながらボウリング場に案内してくれる。

 どんな表情をしても絵になるのだから美少女というのはすごいと思った。


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