ノック

本当に、興味本位だったんです。


降霊術ってあるじゃないですか。「こっくりさん」とか「ひとりかくれんぼ」とか。

正直、幽霊なんて見たこともないし、自分に霊感があるとも思ったことがありません。


でも、忘れるわけがないんです。

8月22日の深夜──いや、日付が変わっていたから、正確には23日です。

時間は、たぶん3時くらい。


布団の中でショート動画をぼんやり眺めていたとき。

ふと、「マジで“出る”降霊術」という動画が流れてきました。

コメント欄は口を揃えて「これはガチ」「後悔する」「やめとけ」なんて騒いでいて。


……次の日は休みだったし。

友達に話すネタくらいにはなるかな、と思ったんです。


やり方は拍子抜けするほど簡単でした。


部屋を密室にして、水を張った洗面器を鏡の前に置く。

それから、自分のいる部屋以外の電気をすべて消す。

そしてただ、鏡に映る自分を、じっと見つめ続ける──それだけ。


水を張るのが面倒で、洗面台に栓をしてそのまま水をためました。

言われたとおりに、他の部屋の明かりをすべて落として。

静かな洗面所で、鏡に映る自分と、ただ向き合いました。


……2分くらいだったと思います。


ふと、「俺、なにやってんだろ」と我に返って。

水を抜いて、洗面所の電気を消して、寝室へ戻ろうとした、その瞬間でした。


──コン。

──コン、コン。


背筋が凍りました。


窓をノックする音が、はっきりと聞こえたんです。

でも、僕の部屋、マンションの3階なんですよ。


怖くなって、振り返らずに寝室へ駆け戻って、扉を力いっぱい閉めました。

エアコンの効いた部屋なのに、汗が止まらなくて。

とにかく布団にくるまって、目を閉じました。


そして──また、聞こえました。


ゆっくりと、一定のリズムで。

僕を嘲笑うように。


──コン。

──コン。

──コン。


恐怖で体が震えて、気を失うように眠ってしまったんです。

いや、もしかすると、本当に気絶していたのかもしれません。


目が覚めたのは、昼前でした。

まるで昨晩のことなんて夢だったかのように、部屋はいつもどおりでした。


顔でも洗おうかと洗面所に向かったとき──気づいたんです。


窓が、開いていたんです。


あのノックは、幻なんかじゃなかった。

あれは、本当に起きたことだったんです。


窓が開いていたってことは、

もう、入ってきてるじゃないですか。


そして思い出してしまったんです。

なぜ僕があのとき、気絶するほど怯えていたのか。


あの音。

寝室で聞こえた、あのノックの音。



──あれ、内側から叩かれていたんですよ。

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