第45話 裁きの閃光
議会を無事に終わらせたソリストがヴィオラの大門に駆けつけたのは、日が高く登った頃だった。
ヴェン・フェルージュ宮殿から大門までの大通りには負傷した兵士が溢れ、軍医や衛生兵だけでなく市民達も手当に走り回っていた。
敵兵の侵入は止まっている。
『勝利』を意味する月桂樹が元老院議会に届けられたということは、少なくとも敵勢がこれ以上ヴィオラ内に攻めてくる可能性は無いはずだ。
大門近くまで攻めてきたモロウの私兵達が、まだ粘り強く帝国軍に抗っている。
「勝敗は決した! 反乱軍はただちに抵抗をやめよ!! 無用な血が流れることを皇帝陛下は望まない!!」
大門の上からソリストの声が響くと、敗残兵達の中に絶望に似た空気が流れた。
戦場を駆ける白い閃光を、ソリストの瞳が捉える。
その閃光は、今まさにソリストを狙って矢を放とうとした敵弓兵を地面が抉れる程の威力で吹き飛ばした。
(何だ)
ソリストは身構えた。
血の滴る剣を携え、ふわりと軽い身のこなしで抉れた地面のそばに降り立った者。
服は所々裂け身体全体が泥や血に汚れているが、戦いの女神もかくやという威容。
周囲の敵兵達が慄き、後ずさっている。
「……シルキー……?」
彼女の特徴である艶のある白銀の髪も一部が血でべっとりと赤黒く染まっている。
シルキーは目にも止まらぬ速さで跳ぶ。
しかし、その先は敵兵に剣先を向けた帝国軍の兵士達だった。
シルキーは着地するが速いか、低い体勢で横薙ぎに剣を払う。帝国軍の兵士達が足から血を噴き出して倒れる。
「彼らは味方だ! シルキー!!」
ソリストの声が聞こえていないのか、シルキーは振り返らないまま、ゆらりと立ち上がる。
(敵味方の区別がついていない)
ソリストは何が起きているのか冷静に考えようとした。
シルキーは再び、首を別の方向に向ける。
視線の先を追うと、敵兵にまたがり、その顔を素手で殴りつけている帝国軍の兵士がいる。
ソリストは息を呑んだ。
「攻撃停止!! 全員剣を収めよ!! 帝国軍、大門まで後退!!」
ソリストの声に、帝国軍の兵士達が戸惑いながらも後退を始める。
(殺意だ)
ソリストのそれは直感に近いものだった。
(シルキーは殺意、そして武器の音に反応している)
ソリストは地上に降り、兵士の間を通ってシルキーの方へ駆け寄り、自分の騎士が止めるのも聞かずにその前に立つ。
「シルキー! 闘いは終わった。帝国が勝ったんだ!」
シルキーはソリストの声に何の反応も示さない。
いつも生き生きと輝く白銀の瞳は、今は昏く、何も映していないようだった。
彼女の細い腕や足を鮮血が伝う。
ふと、シルキーが何かに気付いたように首を巡らす。
ソリストもそれに釣られて同じ方向を見やる。
大門から見るクインテット通り。遠く靄のように砂埃が舞っていた。
蹄の音がかすかに地響きのように迫る。
(まずい)
弟が皇都を出る前に自分に伝えていった策を思い出した時、ソリストは最悪の可能性を考えた。
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