day29.思いつき
「入籍を五月頭にして、式を十月末にしようと思うんだよね」
ある冬の日の昼。
俺、須藤藤乃は友人の由紀瑞希とお好み焼きを焼いていた。
休みの日にふと思い立って瑞希を誘ったら、すぐに車で迎えに来てくれた。
車で三十分ほどのショッピングモールにあるお好み焼き屋で、俺と瑞希は向かい合って座っていた。瑞希は器用にクルッとお好み焼きをひっくり返した。
「ふうん。年四回ケーキが食べられるな」
「ケーキ?」
真面目な顔でかわいいことを言うから、少し驚いた。瑞希は無表情のまま、手元のコーラを飲んでいる。
「うち、それぞれの誕生日とクリスマスと、親の結婚記念日にケーキ出てくるんだよ」
「今でも?」
「今でも」
瑞希はヘラでお好み焼きを二つに割る。もう一度割って、四分の一を取皿に乗せて、渡してくれる。
「……ありがと。お前、手際いいね」
「次は藤乃が焼いてくれ」
「うん、明太餅チーズがいい」
「キムチ追加で」
「はいよ」
次を注文してから食べ始める。熱くて美味しい。
「親父さんやおふくろさんの誕生日にもケーキ出てくるの?」
「出てくるよ。結婚記念日とおふくろの誕生日のケーキは親父が用意してる」
「なるほど……。由紀さん、愛妻家なんだ」
「……そうかな。そうかも。須藤さんならそれくらいしてそうだけど」
「うちは親の結婚記念日に旅行してた。小学生の頃は一緒に行ってたよ」
「ああ、そういうのもいいな」
お好み焼きを食べ終えた頃に、次の明太餅チーズのキムチ入りが運ばれてきた。今度は俺が焼く番だ。
「藤乃も普通に上手いじゃん」
「家でやらされるからね」
須藤家の序列は「妻」が頂点で、それ以外は年齢順に決まっている。つまり、ばあさん、母親、じいさん、親父、そして俺。もし花音ちゃんがうちに来たら、母親とじいさんの間に入ることになる。
そんなことを説明すると瑞希は笑う。
「ウケる」
「そういうもんだと思ってるよ」
瑞希の皿に、お好み焼きを取り分けた。
結婚したら、花音ちゃんにもこうやって取り分けるんだろうか……。そう思うと楽しい。いくらでも焼く。
「お前、花音のこと考えただろ」
「え、なんで?」
「顔がキモい」
「ポーカーフェイスになりたい」
「無理だろ」
まあ、瑞希とこうして一緒に食べるのも、好きなんだけど。
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