day28.西日

 私、茉利野レイラが、二度目にその男の子に会ったのは、西日が眩しい駅前だった。

 綺麗な女の子と連れ立って歩いていて、これだけ綺麗な顔なら、彼女の一人や二人いても不思議じゃないなと、妙に納得してしまった。


「あ、お姉さん」


 素通りしようと思ったのに、向こうに気づかれてしまった。彼女といるのに、わざわざほかの女に声をかけないでほしい。


「……こんにちは、えっと……江里くん」

「こんにちは。今日は元気そうですね。そういえば、お名前を伺ってませんでした。教えていただいてもいいですか?」

「えっ、茉莉野レイラ……です」

「レイラさん。綺麗な名前です。綺麗なお姉さんにぴったりですね」


 江里くんはさらりと髪をなびかせて、王子様のような笑顔を浮かべた。


「……は?」

「あはは、うける。理人、いきなり口説くじゃん」


 女の子が笑い出す。え、どういうこと? 私も笑ってよかったの?

 昔から、こういうときの空気を読むのが苦手で、どうしていいかわからなくなる。私は、いつもそう。


「菅野さん、うるさいです。ごめんなさい、茉莉野さん。この人は放っておいていいです」

「ごめんなさい、私……えっと……」

「僕があなたを綺麗だと思っているのは、本当ですし、本気です。だから、そんなに悲しい顔をしないでください」


 江里くんが私に微笑んだ。……私は、どうすればいいのだろう。


「急にごめんなさい。困らせてしまいましたね」

「……あ」


 私は何も言えず、江里くんを引き止めることもできなかった。


「失礼します。次は、このうるさい人のいないときに」


 江里くんは、小さく手を振って歩き出した。


「ごめん、邪魔した」

「本当です。反省してください」


 女の子が江里くんに謝るのを見て、私は思わず手を伸ばし、彼のシャツをつかんだ。


「……それなら、連絡先、教えてくれる?」

「はい、ぜひ」


 振り向いた江里くんは、一瞬目を丸くしたけれど、すぐにうれしそうに微笑んだ。

 よかった。私は、間違わずに済んだみたい。

 江里くんの顔がやけに赤いのは、西日のせいなのか、それとも――私はわからなかった。

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