day22.さみしい

「さみしい……つらい……」

「うるせえなあ、いいから飲めよ」


 リビングのソファで、泣き言を言いながら徳利をあおってるのは、幼馴染の須藤小春だ。俺、由紀一葉はそれを肴にチューハイを飲んでいる。

 今日と明日は、地域の婦人会の旅行で、うちのも須藤んとこのも、カミさんと娘がいない。だから今夜は、親父連中はうちで、息子組は須藤んちで飲んでるってわけだ。

 けど須藤はというと、嫁がいなくて寂しいって、ずっとしょぼくれている。


「お前……そんなに泣くくらいなら行かせなきゃよかったのに」

「それはダメだ。桐子さんには桐子さんの付き合いがあるし、俺がそれを邪魔しちゃいけねえ。……でも、寂しい……」

「……アホか」


 立ち上がって、冷凍庫を開ける。

 唐揚げと焼きおにぎりを出して、レンジに放り込む。


「あ、あん肝ある?」

「あるわけねえよ。……いや、待て、缶詰がなんかあったな……」


棚を探すと、あった。

しかも、牡蠣とスモークサーモンまである。


「いいの見つけた!」

「わ、やった!さすが!」


 つまみを二人で運んで、ついでに酒も出してきた。


「それにしても、藤乃ってお前そっくりだよな」

「顔は桐子さんなんだけどなあ。中身まで似てくれりゃよかったのに」

「ほんとにな。小春の気持ち悪いとこ、そっくりだよ。花音といるときとかさ」


 小春んとこの息子と、うちの娘は一年くらい前から付き合ってて、来年には結婚するつもりらしい。

 藤乃のことは赤ん坊のころから見てるし、小春が嫁さん大事にしてるのもわかってるから、嫁に出すことに不安はない。

 強いて言えば、上の瑞希にまるで女っけがないのが気がかりなくらいで……。あいつ、跡継ぎどうする気なんだ?

 まあ、どうにもならなきゃ、畑は売っちまえばいい。先のことは瑞希と花音が考えりゃいいさ。


「あれ、須藤? 寝た?」


 気づいたら須藤は机に突っ伏して寝ていた。

 リビングから膝掛けを持ってきてかけてやると、「桐子さん……ありがと……」なんて寝言を言ってる。

 まあ、いいか。残りの牡蠣は全部食べとこう。


 あの缶詰は、瑞希が取り寄せたやつだったらしくて、次の日にえらい怒られた。仕方ないんで、須藤に買い直させた。

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