幸せはバッドエンドと共に〜殺戮兵器を作って国を滅ぼそうと思います〜
うるし/urusi
第一話 プロローグ
その日、日本中に震撼が走った。
理由は単純――とある高校の1クラスが突然、消滅してしまったのである。
都内有数の進学校、茨木丘高校。
2年D組の37人のうち、36人が忽然と姿を消した。
残されたのは空席と、机の上に置かれた教科書だけ。教師たちは呆然と立ち尽くした。
まるで「存在そのもの」がこの世界から抹消されたかのように。
警察は徹底的に捜索したが、痕跡は何一つ見つからなかった。
監視カメラも、校舎周辺の目撃証言も、すべて空白。
時間さえも、まるで止まったかのようだった。
唯一難を逃れた1人、柏木楓馬は不登校になっており、奇跡的に助かっていた。
しかし、その彼も数日後、突如として自宅の密室から姿を消す。
6月20日金曜日、午前11時23分。
母親が部屋の前に朝食を置き、取りに来るまでのわずか15分の間に、楓馬は忽然と姿を消してしまった。
窓には埃が積もり、争った形跡もない。部屋の鍵は内側から閉ざされ、PCは点きっぱなし。
完全な密室だった。
机の上には書きかけのノートと手付かずの食器。
静寂だけが、そこに残されていた。
しかも、今回の楓馬の失踪をきっかけに、彼が学校でいじめを受けていたことが他学生のタレコミで明らかになった。
高校は急遽謝罪会見を開き、メディアは再び大々的に報道した。
テレビに出演した母親は、涙ながらに語った。
「まさか、あの子が突然失踪するなんて……夢にも思いませんでした。楓馬は確かに不登校でしたが、時々家の手伝いをしてくれる、とても優しい子だったのに……」
海外でもこの事件は神隠しとして有名になり、SNSには考察やデマが溢れた。
だが、一向に解決には至らず、手がかりの一つも見つからなかった。
そのうち事件は迷宮入りとなり、人々の記憶からも消えていってしまった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
異世界転生――もしくは異世界転移。
突然、異世界に転生・転移し、女神から勇者の力を授かり、ハーレムを築き、世界を救い、最後は仲間か女神と結婚する。
世の多くの厨二病は、大体これに憧れるだろう。
だが、現実は甘くない。
もし、転移先に高校のいじめっ子がいたら?
もし、そのいじめっ子が転移先の国の王女と共謀し、自分を殺そうとしてきたら?
もし、転移の原因が「家族に殺されたこと」だったら?
もし、いつも守ってくれていた奴に裏切られたら?
……もし、手に入れた能力が役に立たないゴミだったら?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺――柏木楓馬は、辛い人生を送ってきた。
受験に失敗し、中学・高校でいじめに遭い不登校になり、父親はリストラされ、あの事件でメディアや野次馬が家に押し寄せ、母親や妹も外に出られなくなった。
そして最後には、家族に殺された。
これほど酷い人生が他にあるだろうか。いや、存分にあるだろう。
内戦の戦火で政権が崩壊している国もある。
現在侵攻を受けている国もある。
今にも領土を奪われそうな国もある。
治安が悪く警察が機能していない国もある。
何なら日本に生まれただけで幸福だったのかもしれない。
日本の中にも、もっと悲惨な場所は沢山ある。
だが、まだ希望はある。
恐らく、俺は殺された拍子に異世界転生したらしい。
母に刺されて死んだとき部屋の様子が見えたのだが、俺の体は光に包まれ、家族も驚いていた。
明らかに普通ではなかった。
もし異世界に行くなら、まだ巻き返せる。
ここにはいじめてきたアイツらもいないだろう。
そして、何より異世界特有の特殊な能力が手に入るはずだ。
段々と体に感覚が戻ってくる。
さあ、待ち受けるのは王女か、女神か。
能力は鑑定でもいい。大体のラノベでは鑑定が最強クラスだ。
あるいは勇者のような能力でも構わない。
魔王はいるかもしれないが、多分大丈夫だろう。
後はハーレムを築き、老後は田舎でゆっくり過ごしたい。
前世があれだけ酷かったんだ。少しくらい贅沢を言ったって、罰は当たらないだろう。
そういえば、アイツらはどうしたんだろうか。
確かクラスごと消えたはずだが……異世界に行ったのだろうか。
いや、まさかな。
異世界なんて幾らでもあるだろうし、被ることはあり得ないだろう。
それに、アイツらの前世の行いからすると、ゴブリンにでも転生しているだろう。
まあ、もう関係ない。もう忘れよう。
段々、意識が明瞭になってきた。
胸の奥にわずかな高揚が芽生える。
未知の世界――新しい人生――その期待に、心が跳ねた。
さあ、異世界で新しい第二の人生を始めよう。
今度こそ、誰にも邪魔されない幸せな人生を。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
『後継者を確認。管理者の許可を確認。プログラムを実行します』
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