第20話 白昼堂々
目を覚ますと、隣のベッドから呻き声が聞こえてきた。
「うぅ……もうお酒なんて飲まないですぅ……」
ティアが毛布にくるまって、子どものように丸くなっている。
そういえばこの部屋に運び込んだんだっけ……よく覚えてないな。
「おはようございます! あ、ヴェインさんの分も買っておきましたよ」
朝から元気な声を出したロッカは、椅子に腰かけて手に持ったパンを振った。
「……この二人の差は一体なんなんだ」
「きっとドワーフの血のおかげですね!」
胸を張るロッカに、俺は半ば呆れながらパンを受け取った。
昼前にはティアの二日酔いも多少落ち着き、昼からの予定を立てることにする。
「ギルドの依頼を受けるにしては遅くなっちまったからな」
「じゃあ今日は街へお出かけしましょう! 行きたいお店があるんですよ」
ロッカはそういうとバッグから拳大の魔鉄鋼を取り出した。
「これを売るんです!」
「魔鉄鋼をか。それってどれくらいの値打ちがあるんだ? 加工後のものがとんでもなく高いのは知っているが」
「そうですねぇ、このサイズで20万リルくらいですかね」
「なっ……たったその量でか!?」
俺が驚いたことに満足したのか、ロッカはけらけらと笑った。
「いつまでもヴェインさんに支払いを押し付けるのも忍びないですし、これを売ってみんなで山分けしましょう!」
「あの大きさのものを全部売ったら……とんでもない金額にならないか? それこそ一生遊んで暮らせそうだ」
ゴーレムの巨体を思い出しながらそう言うと、ロッカは慌てたように手を振った。
「全部は売らないですよ! あとでみんなの装備とか作りたいですしね」
そりゃそうか。俺の銃の修理にも使うだろうしな。
そもそもあの量を買い取れる店なんてこのリーンベルにはないだろう。
「それともヴェインさんは冒険者を辞めてスローライフでもしたいんですか?」
ロッカが意地悪そうな顔で、こちらを見ている。
昨日の話を聞いたんだ、俺にそんな気がないことくらい分かっているだろうに。
「スローライフは遠慮しとくよ。どうせスローな人生が待ちうけている気もしないしな」
「ふふ、ヴェインさんならそういうと思ってましたよっ!」
ドアが開き、自室に戻っていたティアが顔を覗かせた。
「すみません。私、今日は別行動をします」
「おお、そうか……ってその服どうしたんだ?」
いつもの露出が多いものではなく、かっちりとしたシスター服を着ている。
「教会の方から呼び出されちゃいまして……」
「まだ教会に籍が残っているって言ってましたもんね」
「ええ。この街にいるなら顔を出しなさいっていう召喚状が届いてまして」
教会ってのは一介のシスターなんかにそんな手間をかけるものなのか。
それにしても召喚状なんで仰々しいな。
「まあ別にわざわざ俺に報告しなくても良かったが……」
「師匠ってばひどいです! 私だって一応エコーライト(見習い)なんですよ?」
「あ、ああ……悪かった。じゃあ気を付けて行ってきてくれ」
ということで、俺はロッカと二人で街に出た。
用があるのは、素材屋という魔物の素材なんかを扱っている店だ。
金属を売るなら鍛冶屋の方がいいんじゃないかと思ったが、鉱石としてではなくゴーレムから剥ぎ取った素材として売った方が価値が上がるのだ、とロッカに力説された。
「物は同じなのにそういうもんかねえ……」
「なんですっ!」
店のドアを開けるとカラン、と来客を知らせる音が鳴る。
「よう、オヤジ」
「ヴェインか。今日も魔石を買いに来たのか?」
「ああ、それも頼みたいところだが……今日の用事は買い取りだ」
そういってからロッカに目配せをすると、彼女はバッグから両手で抱えるサイズの魔鉄鋼を取り出した。
おい、それはデカすぎるんじゃないか……。
「な、なんだこれはっ!?」
「ゴーレムから採った魔鉄鋼です、おじさんっ!」
「おう、ヴェイン……お前、女の子に荷運びをさせてるのか」
オヤジはギロリとした目でこちらを睨んでくる。
悪いことはしてないのに何故か汗が吹き出しそうになった。
「いや、その子は俺の新しいパーティメンバーだ」
「ああ? 本当か、嬢ちゃん。嫌な目にあってないか?」
「はいっ、ヴェインさんには良くしてもらってます!」
ならいいが、と納得したようなしてないような顔をするオヤジ。
「で、これだな……『
そういやオヤジは鑑定士だったっけ。
使ってるのを見たことがないからすっかり忘れてたぞ。
「どうやらこれは本物の魔鉄鋼みたいだな。しかしこんな量がゴーレムから取れるとは……」
なんてオヤジは唸っているが、本当はこの数十倍の魔鉄鋼がバッグに眠っているんだよな。
「買い取って貰えますか?」
「うーん、ちょっと待ってろよ……」
オヤジはそう言い残して店の裏に消えていった。
しばらくして戻ってくると、その手には大きな布袋が握られていた。
「150万だ。これはウチが今出せる限界だな」
「それでいいですか? ヴェインさん」
さっき拳大のものが20万リルと言っていたよな。
とすると随分と安いような気がするが……。
「くそ、足りないか……。じゃあ今後、クズ魔石は全て無料で譲ってやる! それでどうだ?」
「……いいだろう」
俺はオヤジとガッシリ握手を交わした。
「俺が決めて良かったのか? あの条件でも随分と安いだろ」
「確かにそうですけど……でもヴェインさんがお世話になってる人なんですよね?」
そういって笑ったから、思わずくしゃりと頭を撫でてしまった。
子供扱いにむーっと膨れたロッカだったが、すぐに相好を崩した。
「よし、そしたらついでにダンジョンで採った魔石をギルドに持っていくぞ」
いくつかは手元に残しておくが、残りは納品してしまおう。
それが魔物討伐の証拠になって、パーティとしての評価に繋がるからだ。
大通りを歩いてギルドに向かっていると、通りの向こうに見知った人影が見えた。
「あれは……ティアか?」
「そうですね、何をしてるんでしょ……う!?」
道に停まっていたやけに豪奢な馬車から、突然黒い手が伸びた。
ティアの短い悲鳴が響く間もなく、彼女は馬車の中に引きずり込まれる。
「おい、待て!」
俺が声を上げた時には、馬車は既に石畳を蹴立てて走り去った後だった。
「は……?」
一体何が起こったんだ。
俺とロッカは呆気にとられて、道の真ん中に立ち尽くしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます