現代ダンジョン豪遊譚ーー(仮)
若葉 葵
プロローグ:星侵の時代
西暦1868年。戦の時代は終わらぬどころか、幕末の火花が新たな引き金を引いた。
それは、会津城下にて発見された、黒ずんだ楕円形の石柱から始まった。長さは人の背丈よりわずかに高く、表面には読めぬ文字と螺旋状の文様が刻まれていた。
「これは、何だ……?」
最初に発見したのは、幕府の軍事研究部門――御城内軍事局の若き士官たちであった。彼らはそれを“星の遺産”と呼び、極秘裏に持ち帰る。
その石柱が“兵器”であると確認されるまでに、時間はかからなかった。
ある晩、実験のために設置された砲台の一つが、偶然にも石柱に接触。激しい閃光と共に、周囲三百メートルが音もなく消滅した。
跡に残ったのは、重力を失ったかのように空中に浮かぶ土と石。そして、白く発光する光の帯が渦を巻いていた。
──空間そのものが、異質に書き換えられたのだ。
これが、後に「星侵兵器(せいしんへいき)」と呼ばれる存在の正体であり、その記念すべき第1号が“八咫鏡”とされている。
同時期、各地の戦地でも同様の遺物が発掘されていった。薩摩、長州、越後、江戸湾――。数ヶ月のうちに、18個の星侵兵器が地球上で確認された。
だが、それらの力を理解しきれぬままに、各国の軍隊や研究者たちは互いに奪い合い、封印を解いた。
星侵兵器は、使えば使うほど“空間”を蝕み、物理法則を書き換えた。
やがて世界各地に異常空間が広がり始める。
東京――その中心部は、砂漠のような亀裂に沈み、巨大な“熱風の柱”が地表を焼き尽くした。
モスクワ――極寒の嵐が吹き荒れ、あらゆる生命を凍らせた。
パリの一角には空中庭園のような浮遊都市が突如出現し、地上との接続を断たれた。
それらはやがて、人々にこう呼ばれるようになる──「異界(いかい)」と。
18の星侵兵器、それぞれが“異なる異世界”の法則を地球に持ち込んだ。地球の表面は徐々に侵食され、まるで“根を張る”かのように、異世界は半球状に広がっていった。
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