第5話 宇宙兄弟

 宇宙兄弟がそろそろ完結するというのでキャンペーンをやってて。それでいま、エッセイを募集しています。宇宙兄弟に感化された話、だったらおれごんも一編、バキッと書いちゃいましょうかと。


 やめました。


 たしかに宇宙兄弟はおもしろい。感化されたし、肩甲骨にlt’s a piece of cake の横文字宇宙兄弟Tシャツを着て渡米だってした。

 でもね、人生ってやつはいいときばかりじゃない。


 宇宙兄弟を読んでいて、ムッタがJAXAの宇宙飛行士試験に挑戦するってなって。そのころ、すっごく苦しかったから。まっすぐに読めなくって。


「ああいいな、これでこのヒトはできる側に遷移するんだ」


 妬ましい。もう、1巻から勝てるヒトのレールに乗った感。勝ち確、劇中で主題歌が流れたような。

 宇宙兄弟という作品は、言うなればムッタの約束されたサクセスストーリー。もちろんてんこ盛りに起伏はあります、だからおもしろい。でもやっぱり、頭もじゃもじゃなヒーローは切り抜けちゃう。なんとかしちゃう。


 現実ってそうじゃない。小説よりも奇なりどころじゃなくって、奇跡なんか起きやしない。こちとら芋虫、羽ばたくことなんかできずに右往左往、今日も地べたを這いずり回っている。


 物語はいつだって、いいところからいいところまでを切り取って見せてくる。主人公が一番輝いているところで終わる。だってそれが作品にとって最良だから。


 おれごんも、あるところだけを切り取れば宇宙兄弟向けの明るいエッセイにはなる。でもそれって、正解なだけで半分は嘘。人生ってそんなホップステップジャンプ、だけじゃない。生まれて死ぬまで、都合も不都合も一緒くた。


 おれごんは、一時だけ水面から顔を出して、今はまた深海暮らし。

 ダイハードなんかはまさにそう、リアル。ハッピーエンドで終わった第1作の続編は、落ちぶれた主人公の横顔から。キスして終わったのに、第2作ではなぜか別居している。


 そうは言っても人生にも波ってやつはあって。下がる時があれば上がる時もあるのは皆さんがご存じ。いつかまた浮上できるんじゃないかと期待して、いまはただ、目の前の生活をどうにかします。


 だから宇宙兄弟のエッセイには参加しません。おれごんは場違い。

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