30歳を迎えたネガティブ社会人、佐野 優太は今日も自分がモテていることに全く気がつかない

ああああああああああああああああああああ

第1話 同類の友達が欲しくなる男(30歳)


何故だろう。つい最近までは、こんな焦燥感に襲われることなんてなかったのに。

今は夜になると、毎日の様に考えてしまう。


真っ暗にした部屋。聞こえてくるのはクーラーの風の音のみ。

フローリングの床に引いた布団の上、今日も一人で勝手に憂鬱になる。


俺、佐野 勇太の人生は、本当にこのままでいいのだろうかと。


30歳、独身。今まで誰かと交際した経験もなし。

生まれてこのかた、異性と手を繋いだ記憶すらもない。

ただただ、平凡なサラリーマンとして生きる毎日。


そして、俺もそれなりにもういい歳だ。


自分が特別な人間ではない。

そんなことは誰に言われずとも、これまでの人生でわかりきっていること。


現に、俺は趣味を他人から聞かれても、などとしか答えることのできない何の面白みもない人間だ。


ただ、別に本当に趣味がないかと言われればそういうわけでもなかった。

そう、厳密に言えば堂々と人に言える趣味がない。いわゆる俺の持っている趣味は明らかなオタク趣味だったから。


例えば、好きな芸人のラジオ番組に毎週ネタ投稿をしていたことも一応、趣味は趣味なのだろう。高校の頃からハガキが読まれだして、社会人になってからもそれはずっと続いていた。放送作家にならないかと声がかかったりしたこともあったが、あくまで趣味だ。自分にはそんな過酷な世界に身を置く決意などもなく、お断り。そして、つい先日、十数年聞き続けたそのラジオは終わりを迎えてしまい、俺のその趣味もあっけなく終わりを迎えてしまった。


あと、大学時代の友人に頼まれて、顔も知らない友人の友人のVtuberチャンネルの台本を趣味で書いていたりもした。無償とは言え、そのチャンネルの登録者数がそれなりに伸びていたこともあって、個人的にはやりがいも感じたりはしていたのだが、つい先日、中の人が未成年におイタをしてしまっていたことが問題になって活動終了。あえなくその趣味も終わりを迎えてしまった。


その結果、俺の趣味というものは本当に読書とドラマ鑑賞という様な何も生み出さない無機質なものしか無くなってしまった。


だからだろうか。


最近の俺の心には、本当にぽっかりと穴が空いてしまったかのように、酷い虚無感だけが残され、つまらない人間として、つまらない毎日を送っていると感じてしまうようになった。


そして、俺がそんな趣味にひとり黙々と勤しんでいた間に周りの真っ当な人達は、いつの間にか結婚や子供が生まれたりと順調に人生の次のステージに進んでいた。


今となっては、こんな状況になるまで気づかなかった。いや、気づかないようにしていた自分が情けないとしか言いようがない。


そう。今の俺には何もない。

言うならば空っぽの人間。挙句の果てには、今になって独りで虚しく生活をする数十年後の自分の姿を想像して勝手に焦燥感を覚えて沈む始末だ。


そんな俺が今から誰かと交際をしたり結婚したりできるビジョンなんてまるで見えないし、そのような未来は実際に無いに等しい。


だから、別に彼女が欲しいとか結婚したいという感情は今もない。


ただ、現実的に数十年後、自分が自分でいられるように、自分と波長の合う友達が新たに欲しい。


友人を作るのは得意ではないが、数十年後も一緒に笑い合えるような、そして異性からはモテない。そんな同士が切実に...欲しい。


「.....」


って、あぁ、気が付けば今日もやってしまった。

一体、俺は30歳にもなって、独りでまた何をしょうものないことを考えているのだろう。


とにもかくにもだ。このままだと、本当に俺の人生はこの部屋と同じ。



真っ暗だ。

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