第七話「冒険者の命」
「見えてきました。――あれがスターレットの村です」
遠目に浅いながら堀と人の背と同じくらいの高さの木柵が見えてくる。どうやらあれが最寄りの村のようだ。シエルがわずかながらほっと肩の力を抜く。ナオはその隣で、目を見張った。
いざ入ってみると、村と呼ぶには思ったよりも発展した光景が広がっていた。ぬかるまないよう踏みしめられた地面、木と石を組み合わせた家屋、荷車を引く人々、陽気な叫び声をあげる子どもたち。そして、鼻をくすぐる香ばしいパンの匂い。
「……いい雰囲気だな。平和そうだし活気がある」
「そうですよね。きっと穀倉地帯だからなのかもしれません」
振り返って笑うシエルの顔には、緊張がほどけた安堵が滲んでいた。森での出会いからまだ間もないとは思えないほど、彼女の隣にいることが自然に思えた。
「まずはギルドに行かないとですね。……バラックたちの報告もしなきゃだし、ナオの冒険者登録も必要ですし」
ギルドがある建物は、町の中央にあった。二階建ての大きな木造建築で、表には剣と盾をかたどった看板が掲げられていた。中からは笑い声と食器の音が漏れてきている。ナオが創作物にて思い浮かべるようなギルドとまさに一致していた。
中に入ると、受付カウンターの向こうで受付嬢である女性がシエルに気づき、小さく手を振った。
「おかえりなさい、シエルさん。バラックさんたちは?」
「えっと、実は――個室をお借りできませんか?」
シエルの真剣な面持ちに受付嬢はすぐさま頷き、シエルを奥にある部屋へと案内した。ナオは彼女の後に続く形で個室へと向かった。
「ところで、こちらの方は?」
受付嬢に声を掛けられ、シエルは森の中でトレントに襲われバラック、リード、ファラが戦死したことを伝え、自身も絶体絶命だったところをナオに助けられたことを伝えた。
「そうですか、あの三人が……。ギルドカード、確かに回収いたしました」
「……パーティを壊滅させたことでシエルにペナルティはあるんですか?」
ナオが気がかりだった内容を受付嬢に尋ねると彼女はすぐさま首を横に振った。
「まさか。故意犯であってそれを証明されれば違いますが、パーティが壊滅した理由を生きて届けてくれることには意義があります。そもそも、冒険者が依頼の最中に命を落としたら、それは全て自己責任です。ただ、今回の依頼は失敗ということで、報酬と同等の損害金を請求することになりますが……」
経済的なペナルティはあるが、それは生きて失敗しても死んで失敗してもあること。
ナオはシエルに刑罰が科されることはないと知り安堵した。
「損害金は支払いに猶予があって、次に挑む依頼の報酬とも相殺できます。……ナオ、手伝ってくれますか?」
「まぁ、頼まれたら断れないな」
「ではナオさん、ギルドに登録されるということでよろしいですか?」
ナオが依頼に同行することを聞き、ギルド職員の女性がナオに確認をとる。
「あぁ、はい。お願いします」
「それでは受付にて登録を行いますので、どうぞこちらまで」
個室を出てカウンターに置かれた水晶玉にナオは手をかざす。転生系作品のコミカライズ版で見たことがあるなと思いながら、魔力の波動を感知してギルドカードへと登録するという錬金具だ。
ギルドカードに刻まれたのはナオという名前と錬金術師というジョブ。そして……
「この刻印は?」
「八級冒険者を意味するクレストです。冒険者の階級は八から始まり、二まで数字が減っていくにつれて階級が上がっていきます。その上の一級は準一級、一級、特一級の三段階に分かれて全十段階です」
ならスタートを十級にしたらいいのにと思ったナオに、受付嬢は説明を続ける。どうやら考えが顔に出ていたようだ。
「一級や特一級はほぼ名誉職です。都市を救ったとか、王族の命を助けたとか、そういう偉業を果たした冒険者へ贈られる称号です。というか、一級冒険者が討伐しなきゃいけないような魔物がしょっちゅう出現したら国が滅びます。なので、多くの冒険者が目指すのは二級ないし三級です。受付嬢として全ての冒険者にお伝えしていますが、どうか命を大切にしてください。でも、必要とあらば……どうか人類を守るため命を散らしてください」
「なるほど……。間抜けな死に方をしない程度に、せいぜい頑張りますよ」
ギルドカードを受け取ったナオは依頼の張り出された掲示板を見ていたシエルと合流し、いったんギルドを後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます