第五話「第一異世界人発見」
異世界にて夜を明かした蔵之介は痛む全身をほぐしながら、ひとまず川の水で口を漱ぐ。寝こけている間に魔物に襲撃されなかったことに安堵しつつも、節々の痛みに身体がきちんと休まっていないことを実感する。
朝食になるようなものもないが、そもそもあまりきちんと朝食をとる生活習慣ではなかったと自戒する。
寝る前に考えていたことのうち、蔵之介はまず装備の強化に取り掛かることにした。
「ナイフと残りの木材を使って……使いやすいし杖の代わりにもなる……槍を……錬成!!」
『簡素な槍(品質50)
長い持ち手と金属の刃で構成されている。属性:武具』
ナイフの段階では日用品の属性だったが、槍になったことで武具として判定された。蔵之介は出来に満足し、軽く振ってみる。刃の部分が石ではなく金属なだけ上等だろうと、その辺りの樹を的にして何度か突き出してみる。
「これで昨日みたいに魔物に襲われても……なんとか、できるか?」
不安感を覚えつつも、蔵之介は太陽と仮定した光源の方向へと進むことにした。太陽と同じ存在だとすれば東へと向かっていることになる。森を真っすぐ突き進むことは難しいが、なるべく一直線に進んだ。
その選択が蔵之介の運命に大きな変化をもたらすことを彼はまだ知らない。だが、蔵之介は異世界に来て初めて他人の声を聴くことになる。
「ぃゃーっ!!」
――悲鳴である、が。
声が聞こえた方へと駆け出す蔵之介は、森の中で戦っている――否、戦っていた状況へと出くわした。濃い血の臭いが漂っているそこには、夥しい量の血を流し倒れ伏した二人の男と腰が抜けてへたり込んでいる一人の少女がいた。
対峙するのは爛々とした目が不気味な樹木型のモンスター、トレントだった。触手のような腕で女性を一人締め付けており、腰があらぬ方向に曲がっていることから既にこと切れているだろう。
唯一の生き残りである腰を抜かした少女をめがけて、トレントがじわりじわりと距離を縮める。蔵之介は助けに向かうべきか逡巡する。勝ち目があるかは分からない。だが、それでも――
「放っておいたら寝覚めが悪いだろうが!!」
槍を構えて猛突進、身体強化スキルのおかげか、助走の勢いは強く、槍の一撃はトレントの樹皮を貫き確実にダメージを与えた。蔵之介はすかさず錬金術で槍を斧へと作り変え、フルスイングで叩き込んだ。
刺さって抜けなくなった斧は収納し、即座に取り出して二撃目を繰り出す。虚を突かれたことで動きを止めていたトレントも、突撃から斧で二連撃を受けてはひとたまりもなく、絡めとっていた女性を放り投げると、蔵之介から逃げるように森の奥へと移動し始めた。
背を向けたトレントを追撃することはせず、蔵之介はへたり込んでいた少女のもとへと向かった。
「立てるかい?」
「ひゃ、ひゃい……」
恐怖に怯え、仲間の死に涙する少女を立ち上がらせると、失禁の痕跡があることに蔵之介は気付いた。
「しりもちをついた時に太ももを怪我したんじゃない? ポーションがあるからかけるよ。……服はそうだ、これを羽織っておくといい。ボタンは留められる?」
有無を言わせず蔵之介はてきぱきと動き、収納から取り出したワイシャツを少女に着せる。小柄な彼女が着ることで膝くらいまでは隠せる。
「あ、あの……貴方はいったい……?」
「そういやまだ名乗ってなかったな。直木蔵之介だ」
「ナオ……クロノスキー……? 家名、き、貴族様!?」
咄嗟に跪こうとする少女をなだめ、蔵之介は慌てて釈明する。
「いやいや、貴族じゃないってば。かしこまらなくていいから。それに名前はそっちじゃ……あぁ、ナオでいいや。短くて呼びやすいだろうから。それで、君は?」
「シエル……です。その、助けてくれて、ありがとう、ござい……ます」
ようやく助かった事実を実感したのか、シエルは泣きじゃくりながらその後も何度もお礼を口にした。蔵之介――ナオは彼女を宥めるように、抱き寄せ、背中をさすりながら泣き止むまで続けるのだった。
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