ラムネ瓶いっぱいの好きを君へ

九十九井

朝曇

「まぶしい」


 雲間から差し込む日を手で遮りながら、宇津木姫乃うつきひめのはひとりごちた。

 昨日までは梅雨真っ只中でジメジメとしていたのに。急に気温が上がった気がする。

 この調子ならば、昼にはカンカン照りになっているだろう。日傘を持ってくれば良かった、なんて姫乃は思った。

 

 朝方、閑静で人影のない住宅街を一人で歩く。

 今日は高校時代の大切な友人に、数年ぶりに会いに行くのだ。

 その集合場所は、バスで行っても二時間近く掛かる。少しでも早く行くためにこんな時間に出たのだ。

 日頃はこんな早くに家を出ないから、いつもと同じ通り道なのになんとなく新鮮な気分になる。白南風しらはえが姫乃の肌を撫でていった。

 裾にあしらわれたフリルとともに、黒いロングワンピースが揺れる。白いレースリボンで結われた柔らかな金髪は、蝶の翅のように広がった。その胸元では、月光を集めたようなネックレスが光っている。


「……別に、アイツのためではない。ないったらない」


 姫乃はネックレスを握りしめ、誰もいないというのに言い訳を零した。

 友人に会う勇気を貰うために買った洋服達。普段はしないような髪型も、おろしたての洋服も全て自分のため。自分に勇気を与えるためで、逃げ道を塞ぐため。そう、自分のためなのだ。

 だから、友人アイツのためではない。ないったらないのである。


 もだもだと言い訳を連ねているうちにバス停が見えてきた。

 時刻表と時計を見比べる。バスが来るまで多少時間に余裕があるようだ。


 ベンチに座って空を見上げる。朝だからか、淡く優しい水色をしていた。

 ぎゅっと目を閉じため息を一つ。友人に会いに行くからか、昔のことが思い浮かんでくる。

 そうだ。集合場所に着くまで、この思い出に浸っていようか。




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