第9話:巧妙な罠!偽りの依頼とパワードスーツの脅威

 七瀬くるみの度重なる妨害に業を煮やしたちょいわるだーは、ついに最終手段に出ることを決意した。彼らは、くるみの弱点である「新しい衣装が必要」という点を逆手に取り、彼女を誘い出すための巧妙な罠を仕掛ける。それは、くるみが普段ターゲットにしている「悪の企業からの妨害依頼」を装い、彼女に接触することだった。データスが作り上げたこの計画は、くるみの弱点である経済的困窮と、彼女の正義感が一体化したコスプレ活動の性質を完璧に突いていた。


 くるみの元に、とある大手重工業企業のロゴが入った厳重な封筒が届いた。それは、これまで受け取った依頼書とは比較にならないほど、高級感のある紙質とデザインだった。中には、高額な報酬と引き換えに、「ライバル企業の最新技術を妨害してほしい」という内容の依頼書が入っていた。依頼内容は具体的で、詳細な計画書も添付されている。一見すると、いつものちょいわるだーへの妨害依頼と何ら変わらない。むしろ、これまでで最も大規模で、報酬も破格だった。その金額を見た瞬間、くるみの心臓は大きく跳ね上がった。これで、当面の生活費だけでなく、高品質な材料を大量に購入し、3Dプリンターのアップグレードまでできるかもしれない。彼女は、これが罠だとは微塵も疑わなかった。自身の金銭的な切迫感と、社会の裏で悪を懲らしめるという「正義」の意識が、冷静な判断力を鈍らせていたのだ。彼女は、この依頼が新たな資金源になると、喜び勇んで引き受けた。


「よし!この依頼で、またしばらくは資金に困らないぞ!これで新しい3Dプリンターの部品も買えるし、高品質な材料も手に入る!」


 くるみは、夢見心地で次のコスプレ選定に入った。今回の依頼は、機械工場の妨害という内容だったため、彼女は機械的な敵にも対応できる能力を持つコスプレを必要とした。そこで彼女が選んだのは、大人気アニメ『機動戦士アルファ』の主人公、「アルファ」のコスプレだった。アルファは、巨大なメカニックを操縦し、高い戦闘能力と機動性で敵を圧倒するパイロットだ。くるみは、アルファのコスプレで、機械的な敵にも対応できると考えた。彼女は、アルファのコスプレは、金属光沢を再現した特殊な素材と、精密な電子回路を組み込んだメカニカルなデザインが特徴だ。3Dプリンターはこれまで以上にフル稼働し、くるみはメカニックの細部までこだわり抜いて衣装を製作した。特に、背中に背負う巨大な推進器は、本物さながらの迫力だった。くるみの指先は、まるで熟練の職人のように、精密なパーツを組み立てていく。完成した衣装を前に、くるみは高揚感を隠しきれなかった。


 依頼現場に赴いたくるみを待ち受けていたのは、ライバル企業の社員どころか、重武装したちょいわるだーの戦闘員たちだった。彼らは、廃工場のような薄暗い場所に潜んでいた。工場内は、錆びついた機械と瓦礫の山で、不気味な雰囲気が漂っている。そして、彼らが身につけていたのは、これまでの簡易的なものとは全く異なる、まるでSF映画に出てくるような、黒光りする重厚なパワードスーツだった。その圧倒的な存在感に、くるみは息を呑んだ。それは、これまでくるみが遭遇してきた敵とは、明らかにレベルが違う代物だ。パワードスーツの関節からは、低く重い駆動音が響き、不気味なオーラを放っていた。


「フハハハハ!コスプレヒーロー!この罠にまんまと引っかかるとはな!今日でお前の活動は終わりだ!」


 ちょいわるだーの指揮官らしき男が、パワードスーツのコックピットから高笑いを上げた。彼の声は、スピーカーを通して不気味に響く。くるみは、自身の周りを完璧に囲むパワードスーツ部隊を見て、初めて罠にはめられたことに気づいた。背中に冷たい汗が流れる。罠だと気づいた瞬間に、くるみの心臓は激しく高鳴り、全身の血の気が引いていくのが分かった。敵は、彼女の弱点を熟知し、万全の態勢で彼女を仕留めに来ている。これまでの戦闘員とは、見た目からして格が違う。彼らのパワードスーツからは、重厚な機械音が響き、不気味なオーラを放っている。くるみの脳内では、アリスの分析能力が警告を発していた。これは、これまでのどの戦いよりも危険だ、と。


 パワードスーツ部隊は、圧倒的な火力と連携攻撃でくるみに襲いかかった。腕から放たれる高出力のレーザーが、くるみのいた場所を焼き焦がす。肩に搭載されたミサイルポッドからは、煙を曳きながらミサイルが連続して発射される。くるみはアルファの能力で、信じられないほどの素早い動きと高精度の射撃で応戦するが、パワードスーツの装甲は硬く、彼女の攻撃がなかなか通らない。レーザーを辛うじて避け、ミサイルを撃ち落とす。しかし、複数のパワードスーツからの集中砲火に、くるみは次第に追い詰められていく。爆風がくるみの体を揺らし、視界を遮る粉塵が舞い上がる。アルファの得意な機動性も、パワードスーツの動きには追いつけない。彼らは、くるみの動きを予測し、連携してくるみを追い詰めてくる。


「くそっ、なんて硬さなの!?それに、動きも速い!」


 くるみのコスプレ衣装も、度重なる攻撃で少しずつダメージを受けていく。ひび割れ、焦げ付き、時にはパーツが吹き飛ぶ。推進器からは煙が上がり始め、機動性が低下していく。アルファの装甲が砕けるたびに、くるみの心に焦りが募る。このままでは、ジリ貧だ。くるみは、これまで経験したことのない絶体絶命のピンチに陥っていた。敵は、彼女の弱点を熟知し、万全の態勢で彼女を仕留めに来ているのだ。


 くるみは、この巧妙な罠からどうやって抜け出すのか、必死に思考を巡らせた。脳裏に浮かぶのは、過去の勝利の記憶と、敗北の可能性。このままでは、ヒーロー活動はおろか、自身の命すら危ない。くるみの心には、恐怖と同時に、この状況をどうにかしてひっくり返してやるという強い闘志が芽生えていた。彼女の瞳の奥で、決して諦めないという炎が燃え上がっていた。この戦いは、くるみの全てを賭けた、正真正銘の「究極の決戦」となることを、くるみは肌で感じていた。

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