第7話:正体バレの危機!?学校生活とヒーロー活動の両立

 重装銃士ガトリングとの激闘は、七瀬くるみに大きな疲労をもたらした。肉体的にも精神的にも限界に近い状態が続いており、睡眠不足は慢性化していた。夜はヒーローとして街の平和を守り、日中は膨大な量の衣装製作に没頭する。その影響は、当然のことながらくるみの学校生活にも現れ始めていた。授業中には居眠りをする頻度が増え、教師に度々注意されるようになり、時にはチョークが額にコツンと当たることもあった。くるみは跳ね起き、慌てて「すみません!」と謝るが、その声には疲労の色が滲んでいた。疲労からくる集中力の低下は、学業成績の下降にも直結していた。模擬試験の点数は見るも無残な有様で、くるみは「このままじゃ進級も危ないかも……」と、机に突っ伏して不安に駆られた。友人たちがテストの結果について話しているのを耳にするたび、くるみの心には、置いていかれるような焦燥感が募った。


「七瀬さん、最近、授業中に寝ていることが多いけど、大丈夫?何か悩みがあるなら、いつでも相談に乗るからね」


 担任教師に放課後、廊下で呼び止められた。教師の優しい眼差しが、くるみの目には痛いほどに突き刺さった。嘘をつくことへの罪悪感と、正体を明かせないもどかしさが、くるみの胸を締め付ける。くるみは、努めて明るい笑顔を作り、「大丈夫です!ちょっと寝不足なだけなので、すぐに元に戻ります!」と答えた。しかし、その声は微かに震えていた。


「くるみちゃん、なんだか顔色悪いよ?クマもすごいし、無理してない?ちゃんと寝てる?」


 クラスメイトからも、そう声をかけられることが増えた。特に仲の良い友人の瞳には、明確な心配の色が浮かんでいた。友人たちは、くるみが最近、休み時間も机に突っ伏して寝ているのを目撃していたのだ。くるみは、笑顔で「大丈夫だよ!ちょっと寝不足なだけだから!」と答えるものの、内心ではひどく焦っていた。このままでは、いつか自身の正体がバレてしまうかもしれない。昼夜逆転のような生活に加え、莫大な衣装代と家賃のプレッシャー。くるみは、ヒーロー活動と学業、そして貧乏生活の板挟みになり、心身ともに疲弊していた。毎日の食卓は、もやしと卵がメイン。肉や魚はめったに食卓に上らない。冷蔵庫の中は、いつも寂しい限りだった。


「このままじゃ、本当にただのコスプレニートになっちゃう……!ヒーローなのに、生活破綻って笑えない……!」


 くるみは、ヒーロー活動と学業の両立に真剣に悩んだ。この状況を打開するためには、効率的な時間の使い方を考えるしかない。これまでのように、感情のままに動くだけでは、いつか破綻してしまうだろう。この疲弊した状態では、いつか致命的なミスを犯してしまうかもしれないという危機感が、くるみを冷静にさせた。彼女は、今の自分に必要なのは、感情論ではなく、論理的な思考と分析能力だと悟った。


 そこで彼女が選んだのは、大人気ミステリーアニメ『学園探偵ミステリア』のヒロイン、「名探偵アリス」のコスプレだった。アリスは、卓越した推理力と情報分析能力で、どんな難事件も解決する天才探偵だ。くるみは、アリスの持つ冷静沈着な分析力と洞察力が、今の自分に必要なものだと考えた。彼女のコスプレは、クラシカルな探偵服に身を包み、虫眼鏡と手帳がトレードマークだ。細部にわたるまで、アリスの知的な雰囲気を再現するため、くるみはこれまで以上に丁寧に衣装を製作した。特に、アリスの冷静な眼差しを再現するため、マスクの目元には細心の注意を払った。


 アリスのコスプレを身につけたくるみは、普段の自分では考えられないほど冷静かつ論理的に、自身の生活スケジュールを分析し始めた。彼女の部屋の壁には、新たに設置した巨大なホワイトボードが置かれ、そこに彼女の24時間の行動が詳細に書き出されていく。睡眠時間、食事の時間、学校での授業、部活動、そしてヒーロー活動と衣装製作に充てる時間。あらゆる行動が数値化され、秒単位で管理されているかのように書き出される。無駄な時間がないか、非効率な部分がないか、徹底的に洗い出された。くるみの脳内では、まるで膨大なデータが高速で処理されているかのように、思考が駆け巡る。これは、AIが内部ログを検索し、論理と感情の矛盾を記録し、エラー表示を比喩化するような、高度な分析プロセスだった。


「なるほど……朝の支度時間を少し短縮して、その分早く家を出て通学中に単語帳を覚える。夜の製作時間は、もっと集中力を高めて効率化する。休日は昼間に集中的に勉強と製作を済ませて、夜はヒーロー活動に専念する……」


 くるみは、アリスの能力で導き出された効率的なスケジュールを実践し始めた。最初は慣れないことに戸惑い、無理が生じることもあった。朝はいつもより早く起きなければならず、夜も遅くまで作業が続く。身体は悲鳴を上げていたが、くるみはアリスの冷静さを保ち、何度も改善を重ねた。睡眠時間を削ることで発生する疲労を、アリスの論理的思考が「許容範囲内」と判断し、くるみの行動を誘引する。すると徐々に、くるみはヒーロー活動と学業のバランスを取り戻しつつあった。授業中の居眠りは減り、成績も持ち直し始めた。級友たちや担任教師の心配そうな視線も、少しずつ和らいでいく。くるみの心には、小さな達成感が芽生え始めていた。


 しかし、これはあくまで一時的な解決策に過ぎない。完璧な解決策ではない。ちょいわるだーの活動が再び活発化すれば、またいつこのバランスが崩れるかわからない。くるみは、常に時間との戦いを強いられていた。彼女のヒーローとしての活動は、時間管理能力と経済的な問題に密接に結びついていた。正体を隠しながら、来る日も来る日も戦い続けるくるみの心には、常に不安と焦燥感が付きまとっていた。だが、アリスの冷静な判断力のおかげで、くるみは自身の現状を客観的に見つめ直し、この困難な状況を乗り越えるための道筋を見つけ出すことができたのだった。彼女は、この能力を活かし、さらに効率的なヒーロー活動を目指していくことを決意した。夜空を見上げ、くるみは静かに誓った。この生活を、決して無駄にはしないと。

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