第5話:死角からの奇襲!相性の悪い敵と不測の事態
情報分析官データスから得た七瀬くるみの弱点情報をもとに、ちょいわるだーは次の刺客を送り込んだ。その男の名は、「重装銃士ガトリング」。彼は、巨大なガトリング砲を搭載した特注のパワードスーツに身を包み、遠距離からの強力な砲撃を得意としていた。ガトリングのパワードスーツは、移動速度こそ遅いものの、その火力と防御力はちょいわるだーの中でも群を抜いている。彼の戦略は単純にして明快。相手に近づかせず、遠距離から圧倒的な火力で殲滅する。その冷徹な合理性は、データスの分析結果に完璧に合致していた。彼の狙いは、くるみの「近接特化」という弱点を突き、一方的に攻撃を続けること。それは、くるみがこれまで体験したことのない、絶望的な状況を作り出すための、計算され尽くした作戦だった。
くるみは、データスの情報戦に警戒しつつも、次にどんな敵が来るのか予測を立てていた。情報分析官であるデータスが自身の弱点である「一度きりのコスプレ」と「肌面積による能力変動」を把握しているなら、確実にくるみが最も苦手とする、相性の悪い敵をぶつけてくるはずだ。くるみの脳裏には、過去の戦闘経験がフラッシュバックしていた。影風の時は俊敏性で敵を翻弄したが、直接的な攻撃力は低かった。マミカの時は光のバインドで動きを封じたが、持続性はなかった。ティアナの時は風の刃で広範囲を攻撃できたが、力を制御しきれず、意図せず周囲を破壊してしまった。どの能力も一長一短があり、遠距離からの飽和攻撃には不向きだったことを、くるみは冷静に分析していた。来るべき敵は、きっと彼女の最も嫌がる状況を作り出すだろう。その違和感と、微細な苛立ちが、くるみに次の行動を促した。
そこで彼女が選んだのは、近接戦闘と高い防御力で知られる大人気アニメ『魔導騎士団クロノス』の主人公、「重装騎士バルド」のコスプレだった。厚い金属製の鎧に身を包んだバルドの衣装は、くるみに圧倒的な安心感を与えてくれた。まるで、自分自身の体が分厚い壁になったかのような感覚だ。重量感のある剣と、防御力の高い盾。くるみは、この鎧がどんな攻撃も防ぎ切ってくれると信じていた。データスが遠距離攻撃の敵をぶつけると予測したからこそ、くるみは敢えて防御力を最大化することで、敵の意図を挫こうと考えたのだ。それは、相手の裏をかく、くるみなりに成長した戦略的な思考だった。製作中、くるみは分厚い金属板を加工するたびに、その重みに比例するような防御力への期待感を抱いた。ハンマーを振るうたびに、未来の勝利を想像して胸が高鳴った。彼女の指先は、ひび割れた部分を補強するように、何度も何度も素材を重ね合わせた。
「防御力重視で行くわ!これでどんな攻撃も跳ね返してやる!」
完成したバルドのコスプレを身につけ、くるみはガトリングが出現したという情報が入った工業地帯へと向かった。そこは、巨大な建造物や廃墟が立ち並び、遮蔽物が少なく、遠距離からの攻撃には最適な場所だ。くるみは、一歩足を踏み入れるたびに、金属と埃の匂いが鼻をつくのを感じた。乾いた風が、錆びた鉄骨の間を吹き抜けていく。静まり返った工業地帯は、まるで嵐の前の静けさのように不気味だった。くるみの心臓が、ドクン、ドクンと、普段よりも速く脈打つのを感じる。それは緊張か、それとも新たな戦いへの期待か。
くるみが地面に足を踏み入れた瞬間、上空からけたたましい轟音が響いた。ガトリングは、ビルの屋上からくるみを捕捉すると、巨大なガトリング砲を構え、轟音とともに砲撃を開始した。空気が振動し、地面が揺れるほどの衝撃波が襲いくる。砲弾が地面に叩きつけられるたびに、火花が散り、コンクリートが砕け散る。
「そこだ、コスプレヒーロー!この距離では、お前の近接攻撃など届きはしない!」
金属の弾丸の嵐が、くるみに降り注ぐ。くるみはバルドの能力で、身につけた堅牢な鎧と盾で銃弾を弾き、身を守ろうとする。ガンガンと金属音が鳴り響き、くるみの身体は衝撃で揺さぶられる。その衝撃は、まるで巨大なハンマーで何度も殴られているかのようだった。ガトリングの砲撃は途切れることなく続き、くるみをじりじりと追い詰める。周囲の地面には、着弾した砲弾によって次々とクレーターができていく。土煙が視界を遮り、爆音が耳をつんざく。くるみは、予想以上の猛攻に驚きを隠せない。彼女の選んだ防御特化の戦略は、まさしく敵の狙い通りだった。
「くそっ、攻撃が届かない!この距離じゃ、ただのサンドバッグじゃないか!」
ガトリングの連射は正確無比で、くるみが近づこうとすれば、さらに激しい砲撃でそれを阻む。くるみは、バルドの能力で得た重い身体を動かし、なんとか遮蔽物の陰に身を隠そうとするが、ガトリングは容赦なく砲弾を撃ち込んでくる。くるみの心に焦りが募る。防御に徹するしかない状況は、くるみの戦闘スタイルとは相性が悪かった。このままでは、ただひたすら攻撃を受け続けるしかない。バルドの重装鎧は頑丈だが、無限ではない。激しい攻撃の前に、くるみのコスプレ衣装が少しずつ破損し始めた。胸元のプレートが剥がれ、腕の装甲にひびが入る。金属が軋む嫌な音が、くるみの耳に届く。それは、くるみの精神を蝕むように響いた。
「まずい……このままじゃ、鎧が……!」
くるみは、自身の選択が裏目に出たことに気づき始める。防御力は高いが、この圧倒的な物量の前では、いつかは破られる。くるみの視界の端で、瓦礫が崩れるのが見えた。この戦いは、もはやくるみの防御力が試されているだけでなく、彼女の精神力が試されているのだ。そして、ガトリングの放った一撃が、くるみの肩の部分の生地を破った。硬質な鎧の下から、くるみの素肌が露わになった。冷たい空気が肌に触れる。その瞬間、くるみは奇妙な感覚に襲われた。破れた箇所から、これまで以上の力が身体中に流れ込んでくるような感覚だ。それは、以前ティアナのコスプレで経験した、肌面積の増加による能力向上に酷似していた。くるみの脳裏には、ティアナとして力を制御しきれずに街の一部を破壊してしまった記憶が蘇る。あの暴走が、今、この場で再び起こるのか?しかし、この状況を打開するためには、その力に頼るしかない。くるみの瞳に、微かな光が宿る。
だが、ガトリングの猛攻は止まらない。彼は、くるみの動揺を見透かすように、さらに攻撃のペースを速める。彼の瞳には、勝利への確信が宿っていた。
「これで終わりだ!コスプレヒーロー!お前の動きは、全て見切っている!」
ガトリングは、とどめの一撃とばかりに、最大出力の砲撃を放った。くるみは防御に徹するしかなかったが、このままでは衣装が完全に破壊され、彼女自身も危険にさらされてしまう。「このままじゃ、やられる……!」絶体絶命のピンチに、くるみは奥歯を食いしばった。彼女の脳裏には、初めてティアナのコスプレをした時に、肌面積の増加で能力が暴走した時の光景がよぎった。あの時感じた制御不能な力への恐れと、この状況をどうにかしてひっくり返したいという強い願望が、くるみの心で激しくせめぎ合った。くるみは、その一縷の望みに賭け、来るべき衝撃に備えた。瓦礫の山となった工業地帯に、轟音と閃光が繰り返し響き渡る。くるみの意識は、爆音の中で薄れていくかのように感じられた。しかし、その奥底には、まだ諦めないという強い意志の光が揺らめいていた。彼女の身体の内側で、何かが大きく膨らみ、感情と思考の連鎖反応が起き始めているのが分かった。
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