第36話
馬は全速力で飛んでくれているみたいで、バサバサと翼の音が大きく聞こえる。
下を見てみると、魔物が木々を汚染させているのか、青色の葉は毒々しい紫色に染まっていた。
「ルチェットさま、お城が……!!」
「わあぁっ!?蜘蛛の魔物!?怖いよぉ!!」
ようやく近づけたお城は、蜘蛛の巣が張られていた。
蜘蛛の巣は城壁をじわじわと溶かしている、毒があるのだろう。
「お馬さん、ありがとう。」
地上に降り立った馬は、ぶるっと体を震わせてから去っていった。
私が深呼吸してからもう一度お城の方を向くと
私を八つの目で見つめる大きな蜘蛛が
目の前に__
「ルチェットさまっ!!」
ラシュルの声で咄嗟に防御魔法を展開したおかげで、私の体は蜘蛛の口に飲み込まれずに済んだ。
一度距離をとって、蜘蛛に向かって電撃を放った。
しかし、蜘蛛は少し震えただけでダメージはない様子。
その後も、攻撃を避けつつ魔法を撃ち続けたが、全く効いていない。
「る、ルチェットさま、大丈夫!?」
「ええ、少し、疲れ……ました……」
「ど、どうしよう……どうしたら……」
ラシュルとパティルは、どちらもパニックになっている。
私が蜘蛛を倒さないと、被害がさらに広がってしまう。
(でも……)
力の差が大きく、今の私では勝つことは難しいだろう。
だけど、やらなければ。
大切な人を……レアンを守りたい!!
瞬間、パチッと頭に強い衝撃が走り、私は意識が遠くなっていく。
蜘蛛の攻撃でも、パティルの雷でもない。
じゃあこの衝撃は?
嫌だ、こんなところで……気を失うわけには……
「……様……お姉様!!」
「はっ……!!」
意識が戻って急いで起き上がり、臨戦態勢をとった。
しかし、私の目の前には、エレンがいた。
「精霊界を襲ったのは、やはり貴女だったんですね!!」
「ま、待って待って、私は"アイツ"じゃないですわ!!」
エレンは慌ててこちらに近づき、私に縋り付いた。
(こんなエレン、見たことがない。)
「……アイツ、とは?」
「あの悪魔のことですわ!!」
「あ、貴女は……何なのですか?」
「本物のエレンです!お願い、信じて……!!」
エレンの見た目をした者は、私の目を見て泣いている。
私がいつも接していたエレンとは全く違う雰囲気で、嘘を言っているわけではなさそうだった。
「……本物、とはどういうことです?」
「アイツに、イヴァスに身体を乗っ取られているんですの!!」
「イヴァス……?」
「イヴァスが私のことを封じ込めて……!!」
声を上げて涙を流すエレンを警戒しながら、私は周りを見て状況を確認する。
しかし、何もないのだ。
何もない、地平線の続く暗い空間。
もし、このエレンが言っていることが本当なら、こんなところに一人閉じ込められていたということになる。
「私、生まれてすぐに乗っ取られたんです、お父様が私にイヴァスを憑依させたんです!!」
「お父様が……」
「ずっと、ずっと謝りたかった、お姉様に会いたかったんです。」
「じゃあ、本当にエレンなの?」
私がそう聞くと、エレンは少しだけ顔を明るくさせた。
「はい、お姉様の妹の、エレンですわっ!」
「そんな……」
誰も手を差し伸べてくれない、一人ぼっちで寂しくて、苦しかっただろう。
私も、孤独だったからよくわかる。
「私の身体がお姉様を虐げていたんです、だから私のことがお嫌いでしょう?」
「……それは。」
まるで生まれたての子犬のように震えながら、どこか諦めたような笑みを浮かべている。
でも、私の体は自然と動いていた。
「ッ……お姉、様??」
「今のエレンは、嫌いじゃありません。」
エレンを優しく抱きしめて、私よりも小さな背中を撫でる。
「エレン、気づいてあげられなくてごめんなさい。今までよく頑張りましたね。」
「……うっ……うぅ……お姉様……」
「絶対に助け出してみせます、だから、待っていてくれますか?」
「……はい!!エレンはお姉様のことを待ちます!!」
腕の中にいるエレンのつむじを見つめながら、ただ静かに抱擁を続けた。
暫くの間泣いていたエレンは、顔をゆっくりあげてほほ笑んだ。
それと同時に、私の体から光が溢れ始めた。
どうやら、時間がきたようだ。
「また会いましょう、次は公爵様にも挨拶させてくださいねっ!」
「ええ、レアンもきっと驚くわ。」
最後に力強く抱きしめ合って、私はついに意識がぷつりと切れた。
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