第35話
「ルチェットさま、ようこそ!」
光に包まれたかと思ったら、すぐに周りの景色が一変していた。
青色の葉に、つやつやな桃色の実をつけた木々。
地面に生い茂る草は、キラキラとラメが輝いている。
そして、遠くには大きなお城のようや建物が見えた。
「ここが……精霊界なんですね。」
「とっても素敵なところでしょ!」
ラシュルが体をぷるぷる震わせながら、誇らしげにそう言った。
「こんなに綺麗な場所、初めてです。」
なぜだか、ここの空気を吸うだけで心が落ち着いてくる。
私が精霊の血を継ぐ者だからだろうか。
「あれ?ラシュルだ!帰ってきてたの?」
私の足元から黄色いなにかが出てきて、ラシュルにそう言った。
よく見ると、火花みたいにパチパチとした不思議な体をしている。
もしかして、この子も精霊?
「あっ、パティル!久しぶりだね!」
「うん!ところで、となりの人はだあれ?」
「えっへん、精霊王さまの末裔のルチェットさまだよ!」
「は、はじめまして。」
パティルと呼ばれた小さな子は、さらにパチパチと火花を飛ばしながら私の顔の前まで浮上した。
「お姫様だあ!!はじめまして!!」
私の頭の周りをくるくると素早く回って、キャッキャと声を上げて喜んでいる様子を見せた。
「ぼく、雷の上位精霊のパティルだよ!」
私が火花だと思っていたのは、小さな雷だったみたい。
雷の精霊だから、素早く動けるのも納得できる。
「パティル、お城の精霊に美味しいごはんを用意するように伝えてくれる?」
「えー、やだやだ!お姫様と一緒がいい!」
「困ったなあ、ぼくは案内をしないといけないのに……」
パティルはビリビリと不満げに雷を漏らしていて、ラシュルは小さな体をさらに小さくして困っていた。
そこで、私はパティルにこう言った。
「パティルは速いから、皆に知らせるのもすぐできると思うんですけど……」
「……うん!ぼくは一番速いんだよ!!」
「じゃあ、皆に伝言をお願いできますか?」
「わかったよ!よーし、全速力で……いってきまーす!」
パティルは目に見えないほどの速度を出したのか、その場から消えて行ってしまった。
「じゃあ、お城に向かってレッツゴーだね!」
ラシュルは私の前をふよふよと飛んで、道案内をしてくれている。
お城までの道中、ラシュルが木の実をつまみ食いしたり、蝶々を追いかけてしまったりしたけど……
やっと、ようやく、お城周辺にたどり着くことができた。
なんだか疲れた……子供の相手をするのって、こんな感じなんだろうな……
下を向いてふっと息を吐いていると、視界の端に小さな光が見えた。
しゃがんでよく見てみると、小さな光が花についていて、ぽわぽわと淡く光っていた。
「ラシュル、この光は……?」
「あっ、下級精霊のみんなだ!」
「この小さな光って、下級精霊なんですか!?」
もう一度よく見てみても、ラシュルのように形を成しているわけではなさそうだった。
下級精霊はまだ卵や赤子のような存在なのだろうか。
「ルチェットさまに会えて嬉しいって!」
「本当?ふふ、なんだか可愛らしいですね。」
下級精霊と指先で戯れていると、猫のように指にぴったりとくっついてくる。
しかし、次の瞬間、私の指先ギリギリを光線が掠めた。
「っな、何ですか!?あっ……」
指先にくっついていた精霊たちは、光線によって消滅してしまったようだ。
なんてことをするの、誰がこんなことを……
「何が起こったの!?なんで!?」
ラシュルは動揺してしまっていて、ほぼパニック状態に陥り、辺りを慌ただしく飛び回っている。
拳をぐっと握りしめ、怒りを胸に辺りを見回す。
すると、パティルが私の目の前に現れた。
「た、た、大変だよっ!!」
「パティル!どうしたんですか?」
「ま、ままま、魔物が!!」
パティルがそう叫ぶと、牛のような魔物が木々をなぎ倒しながらこちらへ向かってきた。
「うわあ!?」
私は魔物に手のひらを向けて、魔法を使った。
何でもいいから、あの魔物を抑えることができる魔法を!
私の手のひらから出てきたのは、大きな泡だった。
泡は勢いよく魔物にぶつかり、魔物を包み込んだ。
どうやら中には水が入っているようで、魔物は息ができずに苦しそうにしている。
……魔物とはいえ、可哀想だから一思いに浄化してしまおう。
私は次に、魔法で雷の玉を出して、魔物の入った泡にぶつけた。
すると、ビリビリと感電が起きて、魔物はさらさらと水に溶けていった。
「わーん!!怖かったよぉ!!」
「パティル、他に魔物は!?」
「上級精霊の皆が、お城の前の橋で戦ってるんだ!!うわーん……!!」
「わかりました、急いで向かいましょう!」
すると、後ろから何かにつつかれるような感覚を感じた。
「ヒヒン!」
急に後ろから鳴き声が聞こえたと思ったら、翼の生えた馬が乗れと言わんばかりに伏せていた。
「ありがとうございます、橋まで連れて行ってください。」
「ヒヒーン!」
馬は翼をはためかせて、空へと駆け出した。
ラシュルとパティルを胸に抱えながら、最悪の事態が起こらないように祈りつつ、この状況を作り出したであろう人物に、私は怒りをふつふつと沸かせた。
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