第03話 田中コウイチ2
薄暗い部屋の空気は、コウイチの抱える深い不安で満たされていました。男性職員は、その重苦しい雰囲気の中で、彼の言葉に辛抱強く耳を傾けています。コウイチは、まるで何か見えないものと戦っているかのように、目を泳がせながら言葉を紡ぎました。
コウイチ:
「警察に相談?でも、俺の話なんて、誰も信じてくれないかもしれない……。最近のニュースでも、何か目に見えない力が関わっているようなことも言われていたし……。そんなことを話しても、きっと変な奴だと思われるだけでしょう?」
彼の声には、深い諦めと、誰にも理解されないことへの恐れがにじんでいました。男性職員は、その言葉を遮ることなく、ゆっくりと問いかけます。
男性職員:
「『目に見えない力』というのは、少し抽象的な表現ですね。もし差し支えなければ、具体的にどういったことを指しているのか、もう少し詳しく教えていただけますか?」
コウイチは、男性職員の穏やかな問いかけに、少しずつ言葉を選びながら話し始めました。その表情は、今にも崩れ落ちそうなほど弱々しく見えました。
コウイチ:
「例えば、あの事件の後に目撃された不気味な影の話とか……。そういう話を聞くと、どうしても頭から離れなくて、気になって仕方がないんです。それに、周りの人たちも、まるで何かを隠しているかのように感じてしまって……。俺だけが知らない、何か恐ろしい真実があるんじゃないかって、そんなふうに考えてしまうんです……。」
コウイチの言葉は途切れ途切れになり、彼の視線は部屋の隅をさまよいます。男性職員は、彼の心の苦しみを理解しようと、静かに頷きました。
男性職員:
「それは、確かに精神的に良くない状態ですね。もし、田中さんが感じているその不安や恐怖が、日常生活に支障をきたしているのであれば、専門のカウンセリングを受けることを強くお勧めします。」
男性職員の提案に、コウイチは顔をしかめました。彼にとって、それは新たな負担に思えるようでした。
コウイチ:
「カウンセリング……ですか。でも、そんなの受けても、根本的な問題は解決しない気がするんです。それに、ただでさえ生活が苦しいのに、さらにお金をかけるなんて……とても無理ですよ。」
コウイチの言葉には、経済的な苦悩と、現状を変えられないことへの絶望がにじんでいました。男性職員は、彼の気持ちに寄り添いながら、しかし毅然とした態度で言葉を続けます。
男性職員:
「生活が苦しいのは、私どももよく理解しています。ですが、心が健康でないと、ますます状況が悪化してしまう可能性も考えられます。まずは、少しでも田中さんが安心して過ごせるような方法を、一緒に考えてみませんか?」
男性職員の言葉は、コウイチにわずかな光を差し込んだようにも見えましたが、彼の心の闇は深く、容易には晴れませんでした。コウイチは、うつむき加減に、ぽつりとつぶやきました。
コウイチ:
「でも、俺は本当に孤独なんだよ……。誰も理解してくれない。周りの人は、みんな俺を見下している気がするんです。そんな中で、どうやって生きていけばいいのか……もう、わからない……。」
彼の声はか細く、その背中からは、深く絶望した男の寂しさがにじみ出ていました。男性職員は、その言葉に静かに耳を傾けながら、どうすれば彼を救い出せるのか、じっと考え込んでいました。
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