三面記事にもならない事件簿01 生活保護の闇

NOFKI&NOFU

第01話 市役所福祉課

小雨が窓を打つ、薄暗いオフィスの一室で、男性職員が静かに資料をめくっていました。彼の隣に座る女性職員は、少し伏し目がちに、しかし確かな声で状況を報告しています。部屋には書類の擦れる音と、二人の控えめな声だけが響いていました。


男性職員:

「今回のクライアントは田中コウイチさんか。受付の担当官からの評価はどんな状況かな?確認して欲しい。」


男性職員の問いかけに、女性職員は手元のタブレットに視線を落としました。


女性職員:

「はい、おおむね、保護の条件は満たしていると思われます。収入は11万円程度で家賃は4万円、各種税金の滞納もありませんでした。光熱費やスマホ代を引くと、本当にぎりぎりの生活を送っていらっしゃったのでしょうね。無駄なことは控えて質素に、そして真面目に生活されていたようです。ただ、運が悪いことに、仕事中に腰を痛めてしまわれたとのことでした。」


彼女の声には、田中さんへの静かな同情がにじんでいるようです。


女性職員:

「おそらく、それが原因かと思われますが、若干の精神的な疲弊や疾患があるようだとの報告です。担当官も、カウンセリングを受けるか、一度専門の病院で診てもらう方が良いかもしれない、と心配していました。」


男性職員は腕を組み、深く頷きました。彼の表情からは、田中さんの置かれた状況を静かに受け止めている様子が伺えます。


男性職員:

「申請は妥当という話か。なるほど。税金は滞納していなかったか……。真面目で、嘘はつかなそうな人物と。上の決定には承服できないな」


男性職員の言葉に、女性職員はただ静かに、何かを思案するように目を伏せました。短い沈黙が、部屋に重く漂います。


女性職員:

「……………。」


やがて男性職員は、その沈黙を破るように、やわらかな声で切り出しました。


男性職員:

「そういうことか。では、上司への確認を今一度頼むよ。私も田中さんの所へ面談をして確認をしてきよう。」


立ち上がりながら男性職員がそう言うと、女性職員は顔を上げ、小さく頷きました。


女性職員:

「わかりました。もう少し努力をしてみます」


彼女の返事だけが、静かな部屋に響き、そしてまた、いつもの日常が戻っていく……小雨はまだやみそうになかった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る