第2章「弟の命を背負って」

「兄ちゃん、もう“人を助ける”とかやめなよ」

それが、弟の最後の言葉だった。


弟の名は榊 晶(さかき あきら)。

小学校の頃から体が弱く、入退院を繰り返していた。

俺が自衛隊に進んだのは、強くなれば弟を守れると思ったからだ。

でも——その考えは、現実に打ち砕かれた。


当時、弟が乗っていた救急車は、災害渋滞に巻き込まれた。

そのとき俺は、災害現場で指示を出す立場にいた。

「このルートは通すな。緊急車両も含めて、封鎖だ」


判断は正しかった。より多くの命を救うための命令だった。

だがその判断で、弟は病院に間に合わなかった。


弟の死を聞いた瞬間、俺は感情を殺した。

泣く資格もない。

俺の選択が、誰かの命を救い、誰かの命を奪った。

だから今も、同じだ。


「天城悠人。お前はまだ“誰も見捨てたことがない”目をしてるな」


最初の試練を生き延びた夜、俺は彼の寝顔を見ながら思っていた。

(お前がどんなに理想を語ろうと、最後は選ばなきゃいけない)

“命の軽さ”と“重さ”を天秤にかける、その瞬間が必ず来る。


そしてそのとき、誰にも気づかれぬよう、俺はまた一つ“嘘”をついた。


“あの子たちを見捨てたことに、何も感じなかったふり”を。

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