番外編『榊 翼:生き残るための嘘』

第1章「正しいことをするな、生き残れ」


「——どんな命令でも、実行できますか?」


かつて自衛官候補生だった俺は、面接官にそう問われた。

迷いなく頷いた。

正しいことより、“必要なこと”を選べる人間になりたかった。


家には戻る場所がなかった。

俺が14歳の時、父は戦場で死に、母は心を病んだ。

誰も俺を守らなかった。だから俺は、自分を守る術だけを磨いた。


あの日、突如として始まった“デスゲーム”。

オルタの放送とともに、俺の名前が空に浮かんだ瞬間、こう思った。

(やっと来たな、人生を決める“本番”が)


選ばれた5人チームの中で、迷っていた者はいなかった。

だが、“鍵”を持たない4人の命を賭けて、正しい判断を下す必要があった。


感情で誰かを救うことはできない。

だから俺は、光に「お前が鍵だ」と嘘の視線を送り、紬には「俺を信じろ」と偽った。

そして、鍵であることを黙っていた自分に、票が集まるように仕向けた。


3人の命と引き換えに、俺は生き残った。

そのとき、自分の心がわずかに震えたことを、俺は知られたくなかった。


「人を殺してでも、生き延びる」

そう教えてくれたのは、この国そのものだったからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る