第10話
放課後。
校舎の屋上に続くドアを開けると、風が制服を揺らした。
夕焼けのなか、南雲千景はひとり、フェンス越しに空を見上げていた。
「……来てくれて、ありがとう」
彼女は、微笑んだ。
でもそれは、どこか覚悟を決めた人の笑顔だった。
「どうして屋上だったのか、わかる?」
「……いえ、なんとなく、ここが千景先輩らしいなって」
「ふふ、正解。……空が広いから。思い切り言いたいこと、言える気がして」
その横顔は、どこか寂しげだった。
「拓人くん、優しいよね。
みんなの想い、ちゃんと受け止めようとしてくれてる。逃げずに」
「……逃げたくは、ないんです。中途半端が、一番失礼だと思うから」
「それも、すごく素敵だと思う。
でも、だからこそ、私の想いも、ちゃんと伝えておくね」
千景は、スカートのすそを握りしめて、こちらを見つめた。
「私ね……昔、好きな人に告白して、フラれたの」
「……えっ」
「その人には、もう想ってる相手がいた。私には何も届かなかった。
だから私、ずっと“見守る側”でいいって思ってた。
保健室で、誰かの疲れた顔を癒すことで、満足してたの」
「……」
「でも、拓人くんと話してるうちに気づいたの。
“誰かを好きになる気持ち”って、また生まれるんだって。
それが、あなたで……嬉しかった」
胸に手を当てながら、千景は言った。
「私は、拓人くんが誰を選んでも後悔しない。
でも、最後まで好きでいるよ。
……それくらい、本気だから」
その言葉は、静かだけど、とても強かった。
「ありがとう、千景先輩……」
「ううん。こちらこそ、ありがとう。
……さ、もう行こう。帰り道、寒くなっちゃうよ」
そう言って、彼女はふわりと笑った。
その横顔は、どこか吹っ切れたようで――
だけど、確かに“恋をした女の子”の顔だった。
その晩、スマホに通知が届く。
《クラスの女子グループトーク:新メンバー追加》
新たに追加されたのは――姫坂ほのか、朝倉真央、星野みらい、南雲千景。
そして、トークの最初のメッセージはこうだった。
最終戦、始めましょう。
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