第16話

「これ、見て。明日、こんなのあるんだってさ」


訓練の帰り道、ジュースの缶を片手に結月が紙をひらひらと揺らした。


カイが手に取って目を通すと、そこにはこう書かれていた。


『未来の魔法士たちへ――魔法啓蒙公開イベント』

主催:魔法系支援連盟/後援:ギルド《エクリプス》


 


「……あんま聞いたことない名前だな」


「うん、地味でしょ。でも見て、この人。白石玲奈。Sランク魔導士で、今はギルドマスターなんだって」


 


カイの指が止まる。


“魔法系唯一のSランク冒険者”――そんな肩書きが添えられていた。


「興味あるなら、行ってみない?」


「……行こう」


 


結月がにっこり笑った。


「じゃあ決まり。明日の午後、駅前の文化ホールね」


 


──それが、全ての始まりだった。


 


***


 


会場は、どこか閑散としていた。

文化ホールの一室に集まった生徒や保護者たちはまばらで、空席の方が多い。


壇上には小さな演台と、魔法陣を映す投影装置。

「魔法系なんてもう……」「今さら期待しても……」といった囁きがあちこちから漏れている。


 


そんな空気を、一人の女性が変えた。


 


ステージに現れたのは、白いローブに身を包み、銀灰色の髪を一つに束ねた女性。

年齢は二十代後半か、もしくは三十に届くかどうか。


落ち着いた歩き方と、静かな目元。


 


「本日はお越しいただき、ありがとうございます。ギルド《エクリプス》代表、白石玲奈と申します」


 


言葉に込められた柔らかな響きが、不思議と場の空気を変える。

ざわついていた会場が、次第に静まり返っていった。


 


「魔法とは、本来“人を救う技術”でした。支援魔法、回復魔法、結界魔法。

ですが今、攻撃魔法は廃れ、そして──“武術”ばかりがもてはやされています」


 


玲奈の言葉は、どこか悲しげで、けれど強い意志を秘めていた。


「私はかつて仲間を守れなかった経験があります。

だからこそ“守るために戦える魔法士”になろうと決めました」


 


その後、彼女は支援魔法と結界魔法、そして小規模な治癒魔法を実演。

発動の正確さ、魔力の制御、発展性……すべてが洗練されていた。


 


「すごい……」

隣の結月が小さく呟く。


「……こんな魔法、初めて見た」


カイも目を見開いていた。

力任せに爆発させてきた自分の魔法とは、全く違う世界がそこにあった。


 


***


 


後半は体験パート。

参加者が順番に簡単な魔力操作や呪文詠唱を行い、それを玲奈が見て回るという内容だった。


「あなた、力はあるけど散ってるわね。もっと芯を持って」

「焦らず、まずは一点集中。広げるのはそれからよ」


玲奈は一人ひとりに、穏やかに声をかけていく。


 


そして──カイの番が来た。


 


「よし、じゃあ……やってみるか」


 


彼は構えを取った。


その姿は、他の参加者とは明らかに異質だった。


足を一歩踏み込み、右拳に魔力を集中──


「《バーストブロー》」


爆発の反動で拳が空を切る。その一撃は、誰よりも重く、速かった。


一拍遅れて、場がざわめいた。


「今の、魔法?」「あれ、格闘じゃ……?」「いや、でも爆発してた……」


 


玲奈の視線が鋭くなる。


彼女は静かに歩み寄り、カイを見つめた。


「……今の技、どうやって?」


「えっと、爆発系の魔力を拳に乗せて、打ち出すだけです」


「だけ、って……普通は身体がもたないはずよ」


 


玲奈は小さく頷いた。


「……面白い動きね。あなた、訓練は?」


「まあ、ちょっと変則的に。武術系の訓練をしてたんで」


「なるほど」


 


一瞬、玲奈の目に確かな光が宿った。


「ねえ。もしよければ、一度……私のギルドに来てみない?」


 


「ギルド、ですか?」


 


「あなたの魔法、まだ“言語化”されてないけど──

その可能性、放っておくには惜しいと思うの」


 


結月が思わず隣で目を丸くする。


「す、すご……スカウトされてるじゃん、カイ……!」


 


カイはほんの少し考え──そして頷いた。


「……行ってみます」


 


玲奈はやわらかく笑った。


 


──こうして、カイは“魔法”の世界における本当の第一歩を踏み出す。

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