第2話

それから数日後、奏太は塩野と共に各店舗の視察を終えたところで、空腹を覚えた。


この日は忙しさで昼食も摂っておらず、時刻は夜の七時半を回っていたからだ。


「腹減った……」


「そうですね……何か食べたいものありますか?」


帰りの車内で運転中の塩野に問われて、奏太はしばし考え込んでから答えた。


「特にない。何でもいいよ」


「それなら、一度行ってみたいレストランがあるのですが、そこでもよろしいですか?友人に美味しかったと勧められたものですから……」


塩野の提案に、奏太は「あぁ、それで良いよ」とさほど興味がなさそうに答えた。


本当に、食べる物は何でもよかったのだ。


腹は空いていたが、取り立てて食べたいものなどなかったから。


普段から奏太は食への意識が薄く、小食な上に今日のように食事を抜くこともしばしば。


腹が空いたら仕方なく食事をするといった程度である。


そんな彼を見ているから、塩野はいつも奏太の栄養面を心配している。


「奏太さん……食事をしっかりと摂ってくださいね」


「……分かってるよ」


溜め息混じりの奏太の返答に、塩野も内心溜め息を吐いた。


食事については、まるで母親のようにいつも塩野に小言を言われている。


心配してくれているのは分かっているが、内心はややうざったく思っていた奏太だった。




奏太を乗せた車が到着したのは、六本木にあるビルの駐車場。


どうやらこのビルの中に、塩野が勧められたというレストランが入っているらしい。


プライベートではこういった場で食事をすることはあまりないが、たまにはいいかなと奏太は思った。


塩野に連れられて上階までエレベーターで上がる。


飲食店が何店舗もあるフロアで、時間的に夕食目当ての人々で混雑していた。


奏太は何となく騒々しい中で食事をするのは嫌だなと思う。


しかし塩野が、奏太の気持ちを察したのか口を開いた。


「安心してください。静かな空間で食事ができる店ですので……」


「そうか……」


「えぇ。それに、席は既に予約をしております」


いつの間に店の予約を入れたというのだろう。


奏太は塩野の仕事の速さに恐れ入った。



「こちらです」


塩野がそう言って案内したのは、高級そうなイタリアンの店。


「え、ここ?随分高そうだけど……」


「今日は、私が奏太さんにご馳走をさせていただきますので」


塩野の申し出は意外だったが、奏太は素直に「そうか」と言って受け入れた。


たまには彼に驕られるのも悪くないだろう。


二人で店内に入ると、ウェイターの男が近付いてきた。


「ご予約のお客様でしょうか」


そう尋ねてきた男は、完璧な営業スマイルを浮かべている。


もしくは、これが彼の自然な笑顔なのだろうか……。


色白な男は、百八十五センチほどあるであろう高身長で、程よく筋肉がついているがっしりとした体格なのが服の上からでもわかる。


きっと、鍛えてはいるのだろう。


顔はというと、東洋っぽさの中に欧米の雰囲気も混じっている雰囲気がある。


もしかしたら、ハーフとか外国のルーツがあるのかもしれない。


奏太は一目でウェイターの男に目を奪われてしまった。

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