花天月地【第49話 燎原の炎】
七海ポルカ
第1話
せめて動きや、どう涼州で展開しているのかを確認しなければ劉備にも、
覚悟を決めて、
魏の定軍山砦には
彼は趙雲を自ら出迎えたので「いや、今回は軍策ではなく私事で
鳥が運んで来た文は小さく折りたたまれていたが、
出てくる時、
だから鳥の力を使って急ぎの伝令を使ったのだ。
いくら趙雲が早くても、さすがに空を制する鳥が山を越える早さには敵わないからである。
まるで【
手紙にはっきりと仔細は書いていなかったが、「
これは諸葛亮の考えが、
諸葛亮に全く派兵の意思がない場合は
姜維は普段、公の場でなければ諸葛亮を「
姜維が「丞相」と諸葛亮のことを書く場合、公の意が含まれている。
よって、「丞相が涼州の状況を気にしている」という言い方は、劉備に話がまだ行っていなくとも
趙雲はその気持ちには感謝し、今夜中に発つつもりだがと言った上で王平と夕食を共にした。
「先程の
しかし当然だが、王平もすでに北方から魏軍が
「まだ何が起こるのか、分からないのです。王平殿。
曹魏の動きを待つ形でしか動けぬのは辛いことですが」
王平は頷く。
「しかし魏軍の顔ぶれを見ました。
「はい。私もそう思います。特に
「出身者ですからな。若くして
近しい、と言った王平の声に嫌悪感が混ざった。
「
「どのようなものと考えられますか?」
「
「つまり【
茶を飲みながら、考えを巡らせる。
「曹魏軍の規模の大きさは、
「私もそう思います。彼らは曹魏相手にも砦を守る以外は遊撃戦で挑んでくるため、全体数が捉えにくい。馬超将軍は名高いですし、
しかし韓遂も馬鹿ではない。今曹操と手を結んでも、実権はいずれ
父親の約束など知らんと同盟を反故にされた場合、自分が処断される立場に近いことは読めるはず。
此度は容易く涼州騎馬隊が曹魏と手を組むとは思えませんが」
「とすれば曹魏が新しく涼州に防衛の砦を作ることも、涼州騎馬隊は良しと見ないのでは」
「戦になるでしょうか?」
「騎馬同士の戦いになれば、まだいい。
王平が趙雲を見た。
「貴方が涼州を気にされたのも、そのことが気がかりだからなのでは」
「……。」
「馬超将軍を……殿はどのように使われるおつもりなのでしょう……?」
決して強く詰問するわけではなく、みだりにこういったことを私的に口にしない趙雲の性格を知った上で、窺うようにそっと王平は聞いて来た。
……みんな不安なのだ。
(呉蜀同盟決裂は、私も意図していなかった)
【
勝利に湧く呉軍からも離れて、ろくな護衛もほぼつけず
『彼』が若く、重鎮でないから、そのような危険地帯に送り込まれたわけではないのは、趙雲は分かっていた。
だからといって彼の意志で、あの時
『恐らくあの方を私の許に送り込んだのは周公瑾です』
諸葛亮が無事に戻った
「だがあの時、近くに私もいた。何故
「……孔明殿は単なる軍師ではありません。
軍略に聡い軍師でも、そういったことに力を発揮出来ない者は多いのです。
「孔明がいなくなれば、私の命などいつでも奪えると……」
「それにしたってよ。孫権の奴だ。自分の妹がまだ兄者の側にいるってのに、そんな作戦を周瑜にやらせるってのは、どーいう神経の奴なんだ!」
「政略結婚とはそういうものだ。
「じゃあ、あの女はいずれこうなるってことを知ってて嫁いで来やがったのか」
「
……全ては
呉の
敵ながら
『
不思議な問いだったので、趙雲は首を傾げる。
「いや。何故だ?」
「だって気にしておられたでしょう」
指摘されて、ああ……と気付いた。
「いや。あれは……
趙雲は苦笑する。
姜維に対して嘘はつけない。
貴方が私を欺くはずがないですよね、という目で彼はいつも最初から趙雲を見て来るので、些細なつまらない軽はずみな嘘でも、つこうとすると罪悪感を感じるのだ。
「若いのに才ある剣を使う人だなと思っただけだ」
孔明先生を狙うような奴だからですよと言っているが、
ふと自分が彼を気にした理由と、姜維が最初から陸伯言に背を向けた理由が、同じなのではないかと
「貴方なら、武芸の才のある人間など山ほど知っているはずじゃないですか。
貴方自身だって力のある人だから、滅多に強い剣術使いに会ったくらいじゃ驚かないはずです。絶対に何か別に理由があるはずだ」
「そんなことはない。私だって日々才ある人々に驚いてるよ」
「貴方は嘘を言う人じゃないけれど、謙遜が過ぎると信じません」
姜維は、いざとなれば趙雲なら
だから趙雲が陸遜を気にすると苛立つのだろう。
実際趙雲が
馬超相手だと勝ったり負けたりしても、いつも目を輝かせて槍の稽古を見守っていた。
趙雲がいざとなれば討てる相手を、何故妙に気にする必要があるのかという、そこが分からず不満に思ってるのだろう。
言葉で説明してやれたら確かに楽だ。
だが生粋の武官である趙雲も、さほど言葉が上手ではない。
それに本当に、何か明確な、大きい理由が何かあるわけではないのだ。
初めて
いい剣だったが、叩き折った。
しかし実はあの時、趙雲が狙い、思い描いていたのは剣を折ることではなく、剣を叩き折って尚且つ、胴切りをすることだった。
非常に
一瞬受けかけて、耐えきれず砕けたので、その威力のほとんどが剣を砕くことに費やされ、陸遜を斬るまでには至らなかった。
決して驕ったわけではないが、殺せると思った相手を殺せなかったことが、少し心に残った。
次に会った時は
すでに彼は新しい剣を持っていて、趙雲は再び剣を破壊するつもりだったが、今度は剣も砕けなかった。
武器に詳しい者に聞くと、趙雲の使う名槍【
襲いかかって来る時に、一瞬柄の部分に非常に細かい
砕けなかった剣はともかく趙雲が忘れられないのは、斬り掛かって来た姿だった。
確かに
一番最初に会った時は、まだ探ろうとする意図や、迷いのようなものが表情に見えたが、二度目に剣を交えた時は一切躊躇いを見せず、怒りの表情で襲いかかって来た。
その時に見せた、あの剣技。
一度目に会った時とは豹変していた。
真剣な斬り合いなら、何もかも思い通りにならないなど趙雲はよく分かっている。
多少の想定外などで揺るぎはしないが、あの青年と対峙する時だけは、何もかも予想していなかった結果になる。
三度目は……。
『
俯いた顔を伝い、地に落ちていく涙の雫だけが見えた。
(忘れられない)
【
敵だったのだ。
敵である
それを阻止した
一体どこへ行ったのだろう?
龐統のために泣いていた、あの姿が趙雲の脳裏には今もはっきりと残っている。
呉蜀同盟があの時あの場所で決裂するなど、
「呉蜀同盟は呉から切った。
呉と手を結べない以上、蜀は北へ目を向けるべきです。
時期は分からないが、私は魏軍の【
今回の動きはその布石かも。
注視しておく必要があります。
私は強くそう感じるのです。
どうかよろしくお願いします」
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