もう一人の彼

 俺とヒスイは二人で商店街に向かった。ノゾミは今日バレー部の活動があって共に行くことはできない。まあ、仕方ないだろう。


 俺達がぼや騒ぎの現場につくと、その周囲では消防職員がその原因を調べるための調査をしていた。事件性があるとみられたのか、警察官もそのなかにいて、調査の協力と、野次馬の対処をしていた。

「ここは…なんのお店でしょうか?看板が焼け落ちてしまっていて、判別できません」

 ヒスイが俺に聞いてきた。

「うーん。うろ覚えだが、確か青果店だったような気がするな」

「青果店ですか…あまり火事の原因となるものは無さそうですが…」

 そう言って、ヒスイが商店街の奥の方へ歩き出した。

「ついてきてください」


 ヒスイの言葉に従って歩いていくと、さっきの商店街の中の店と店のあいだの狭い通路に入った。いったい何をしようというのだろう。

「わざわざ回り込んでどうするんだ?」

 その問いに、ヒスイは人差し指を、そこに立っているある人物に向けて答えた。

「彼、もとい私の力を借ります」

「は…?」

 その人は、ヒスイと全く同じ顔をしていた。でも、若干目が細い気がする。そして、俺たちの方を振り向いて、言った。

「やあ!来たねヒスイ、それにハルくんも」

 驚いた。こいつは俺の名前を知っている。それに初対面でこんなに馴れ馴れしく接してくる。普通だったら引いてしまうような気がするが、どうも俺は、こいつを初対面だとは思えない。

 ヒスイは俺に説明してくれた。

「容姿が似ていると思ったでしょう?彼は私のクローンなんですよ。名をコハクと言います」

「なんだと…?」


 理解が追いつかない。クローン?そんなものが存在するのか?まさかヒスイもクローンなのか?理解できない俺がおかしいのか?

「まあ!理解できないのも仕方ないさ!まずはこの事件を解決しよう!」

 コハクはそう言って、俺とヒスイに何かの機械を手渡した。

「それは透明化できる装置だ。それを使ってバレないように建物の内部を調べるんだよ」

「そんなことができるのか?いやそもそも、どこから侵入するんだ?っていうかそもそも、勝手に入って大丈夫なのか?」

「倫理的に問題はあるかもしれませんが、バレなければ大丈夫です。それに、我々のワープ技術をもってすれば、人にバレずに侵入することなんて朝飯前ですよ」

 ワープ技術って何?そう言葉を漏らすよりも早く、ヒスイが俺の体に手を触れ、透明化装置を起動させた。

 そして次の瞬間。ほんの少し、目眩のような感じがしたかと思うと、目の前の景色が薄暗い通路から、明かりのついていない室内へと変わり、焦げ付いた匂いが鼻をついた。

「なっ…!どうなって?!」

「落ち着いてください。ハルさん。あの青果店のなかに侵入しただけです」

 すると、俺たちの真横を消防職員が通り過ぎていった。が、こちらを気にかける様子はない。バレてない?そう驚いていると、コハクが説明してくれた。

「この透明化装置は姿だけじゃなく、発する音も無くしてくれるんだ。でも、この装置を使っている者同士なら姿と音を認識することができる」

「なんで、どうやってこんな物を…」

「まあまあ、細かいことはあとにしましょう!今は、このぼや騒ぎの原因を突き止めないと!」

「そうそう!よし!それじゃあ、調査開始だ!」

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