第12話 復讐代行業者
「お問い合わせありがとうございます。結論からいうと可能です。大手証券会社ということで比較的Easyな案件です。株主だろうが、アルバイターだろうが、一般的に、『こんなことをやった人間を雇用できない、本人もとても今までどおりの生活を継続できない』という心境にならせます。」
Mは回答を読んで、自分から声をかけておきながらやけに生々しく感じてしまった。特に「とても今までどおりの生活を継続できない」という言葉には、Bを葬るという行為が、いかに残酷な行為であるかをまざまざと見せつけられたような気持ちにさせられた。それは罪悪感などではなく、もしもこの依頼が成功した時の、Bに対する同情のようなものであった。その時のBは、一体どんな様だろうか。彼も人生を賭けてこの改革プロジェクトに取り組んでいる。今のところ彼の創意工夫と不断の努力によって彼の望みどおりに進んでいるはずだ。その道半ばにして得体のしれない謀略に陥れられ、このプロジェクトの断念どころか会社まで退職しなければならなくなれば、それはとても、無念であろう。彼には確か家族がいるはずだ。子供も二人いると聞く。それだって崩壊するかもしれない。MはBを恨んではいたが、ここに来てそこまで恨んではいないような気がしてきた。Mは、ふとした時のBの優しい笑顔やしぐさを思い出した。拡大路線で突き進んでいたM自身の活動が、実は他の顧客よりも利益が薄かったとBが気づいた時も、自分を責めずに庇ってくれるような発言さえしてくれたこともあった。BがMを退職させようと試みた背景も、会社の戦略という大きな流れに逆行する立場にたまたまMがいたためであり、BがMを心情的に憎んでいるわけではないことはMもそれとなく感じてはいたのである。BにはBの立場がある―――。ここにきてMは、Bのそんな諸々にも思い至った。Mはまた、渦中のBと一緒に日々を過ごすことも想像した。Bのボロボロに弱っていく様を同じ事務所で傍観するのはどんな心地なのだろう。恨みが無いと言えば嘘になる。が、人がそんな姿に変容していくところを傍観するなんて、できればしたくない。それが自分由来であればなおさらだ。そんな気持ちが思いがけなくMの胸に去来した。
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