底辺配信者の俺が隣に住んでいる超超超寂しがりな美少女に懐かれた件 ~俺の声は彼女の精神安定剤のようです~
にぃ
第1話 底辺配信者と寂しがりな女の子
「これが『
動画配信飽和時代。
競争に勝ち抜けず、今日もまた一人動画配信者が引退に追い込まれていた。
『声野綺麗』
まぁ、俺のことなんだけど。
「このさみしがり屋め。俺の声が聴けるのは今日が最後だぞ? しっかり堪能してくれよな。お前の耳、肌、頭の天辺から足のつま先まで俺のモノだった。手放すのは惜しいが別れの土産として今日はたっぷりと可愛がってやろう」
うん。親が聞いたら泣くなこれ。
まぁ、これを聞いてくれている人なんて——
「綺麗様ぁぁぁぁっ! お別れなんて嘘ですよね!? 嘘ですよね!?」
——この人しかいないのだけど。
俺の生配信コメントに流れるたった一つのコメント。
ハンドルネーム『カエデ』さん。
俺の配信で唯一の熱狂的リスナーであり……
そして唯一のチャンネル登録者でもあった。
「(3ヶ月間生配信をやってみたけれど、これだけ頑張ってチャンネル登録者数「1」ってヤバない?)」
どうやら俺には生配信の才能は全くなかったようだ。
最後に披露した渾身の自作ASMRもたった一人のリスナーにしか届かなかった。
いや、たった一人であっても声野綺麗を好きになってくれたこの人には感謝しないとな。
「今まで応援してくれてありがとう。俺の虜になってくれたリスナーの皆——いや、眷属カエデ。俺のこと忘れるなよ。いつかまたどこかで会えたら良いな」
カエデさんの為に最後にもうちょっとだけリップサービスをしてあげようかな。
「ふっ、その時はお主にだけ大サービスしてやろう。また会えた時、この俺に思いっきり甘える権利を与えてやる! ふはーはっはっはっ!」
意味不明な高笑いを残し、動画配信者『声野綺麗』はネットの世界から消えていった。
だが、それはこれから起こるとんでもない出来事の前兆でしかなかった。
「ん? チャイム?」
声野綺麗の中の人——『
「またセールスか」と嫌気を刺しながら玄関に向かう。
玄関を開けると、同い年くらいの女の子が俯きながら立っていた。
セールス業界め、姑息な手を。こんな美少女にモノを押し売りされたら思わず買ってしまうじゃないか。
「あ、あの!」
意を決するように顔を上げ、声を張り上げる女性。
あれ? この人、どこかで見たことある気がするな。
「わ、私! 隣に住んでいる者なのですが……」
そうだ。お隣さんだ。
挨拶に行ったとき、物凄い美少女が出てきて驚いた記憶がある。
結局一切交流はなかったけれど。
「あ、貴方のせいで、わ、私、眠れなくなっているのですが!」
「えっ!?」
まさかのクレームだった。
そうか。このアパートの壁はそれほど厚くなかったんだ。
俺が深夜に生配信していたせいでこの人の安眠を邪魔してしまっていたのか。
俺はなんてことを……!
「す、すみませんでした! もう深夜に配信したりはしませんので、どうかお許しを!」
慌てて頭を下げる俺。
しかし、彼女の怒りは収まらない。
「どうして配信を辞めたりしたのですか! ここ最近、貴方の声が聞こえなくなったから不安で眠れなくなったのですよ!」
「どういうこと!?」
「私が究極的な『さみしがり』であることを分かっていての嫌がらせですか! 返して! 私の睡眠安定剤だった声野綺麗様を返してくださいよぉ~!」
ほとんど初めて話した人に肩をグラングランと揺らされる俺。
よほど切羽詰まっているのか彼女は涙目で訴えてきていた。
「きょ、今日は責任を取ってもらいにきたのです」
「せ、責任!?」
「綺麗様はまた会えた時、キミにだけサービスすると言いました」
「えっ……?」
確かに言った。
でもアレはたった一人のリスナーの『カエデ』さんに向けた言葉で……
……いや……まて……ちょっとまて……
「またお会い出来ましたね綺麗様。私を——カエデを甘えさせてくれるって貴方は言ってくれましたよね?」
「お隣さんがカエデさんだったの!?」
チャンネル唯一のリスナーが隣に住んでいたというミラクル。
そんな偶然ある?
「なら遠慮なく甘えさせて頂きます」
彼女は一息深呼吸を入れると、大きく声を張り上げながら俺達の関係を動かす運命の一言を放った。
「私が安心して眠れるように毎晩傍にいてください!」
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